日本の若い女性では、やせていても血糖値が上昇しやすく、肥満の人と同じような糖の代謝異常が起きており、糖尿病になりやすいとの研究結果を、順天堂大学医学研究科代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授らのグループが明らかにした。

やせているのは健康的で良いことと思われるかもしれないが、「実はそうとも言えません」と田村准教授。若い時にやせている女性は中高年になってもやせている傾向があり、肥満の女性と同じように、標準体重の女性に比べて糖尿病の発症リスクが高いという。「今やせていると、将来的に深刻な健康リスクを高める可能性があります」と田村准教授は警鐘を鳴らした。

日本人女性のやせ率は先進国で最も高い

世界の中でも、日本の女性はやせが多い。肥満度を表すBMI(体格指数)を見ると、日本人女性のやせ(BMI18.5以下)の割合は9.3%と世界の先進国の中で最も高く、特に20代の女性は約20%と、極めて高い割合を示している。世界的に食料事情は良くなり、BMIの数値が上がっている中、1997~2016年の20年間で女性のやせの割合が増加したのは日本とシンガポールだけ。非常にまれな状況だ。

田村准教授の資料から
田村准教授の資料から

欧米の肥満の人と同等の血糖値上昇

そんな中、田村准教授らは18-29歳のやせ型(BMI16.0~18.49)の女性98人と、標準体重(BMI18.5-22.99)の女性56人を対象に、ブドウ糖を含んだ水を飲んで30分ごとの血糖値やインスリンを測定し、体内の糖を処理する能力を調べた。すると、標準体重の女性の耐糖能異常は1.8%だったのに対し、やせ型女性は13.3%と約7倍も高い結果となった。これは、米国の同世代の肥満者(10.6%)よりも高い数値であり、日本のやせた女性は、欧米の肥満の人と同じくらい血糖値が上がりやすいことを示している。

田村准教授の資料から
田村准教授の資料から

この研究ではさらに、若いやせた女性で耐糖能異常がある人は、インスリンの分泌低下だけでなく、インスリンが効きにくくなっている「インスリン抵抗性」が生じているということも明らかになった。

脂質は体の中の脂肪組織に蓄えられていて、主に空腹になると遊離脂肪酸に分解され、エネルギーとして使うために血液中に放出される。インスリンはその働きをコントロールしているホルモンだが、体内の脂質が増えすぎると遊離脂肪酸が漏れ出してしまい、肝臓や筋肉でのインスリン抵抗性をもたらし、血糖値の上昇を招くことになる。

やせていても耐糖能異常の人も

これまで、遊離脂肪酸が漏れ出したりインスリン抵抗性が生じたりするのは、肥満特有のものだと考えられていた。しかし今回の調査で、耐糖能異常があった女性のほとんどは、やせているにもかかわらず、かなりの量の遊離脂肪酸が血液中に漏れ出ている状態であることが分かった。

田村准教授の資料から
田村准教授の資料から

やせていても遊離脂肪酸が血液中に漏れ出ている状態である人は、筋肉の中に脂肪が溜まってしまい「筋肉の質が低下している」状態である。このため、インスリンが十分に働かず、血糖をうまく取り込めなくなっており、肥満者並みのインスリン抵抗性が生じ、糖尿病のリスクが高い状況にあるのだ。

日本の女性にやせが多いのは「健康」を意識してよりも、「きれいになりたい」「もてたい」といった見た目を意識してのことが多い。しかし、それによって体の中が、筋肉が少なく脂肪が多い状態になってしまっては、将来的に骨粗しょう症や糖尿病などの生活習慣病、認知症、がんなどのリスクが高くなる。

少ししか食べず運動もしなければ、確かに体重は減るかもしれないが、決して健康的なやせ方ではない。この「食べない→運動しない→やせる」という「エネルギー低回転型」を、「運動する→食べる→筋肉をつける」という「エネルギー高回転型」にする必要があると、田村准教授は指摘する。運動の種類としては「インスリンの効きを良くするには有酸素運動、筋肉を太くするにはレジスタンス運動」とし、さらに「バランスの良い食事を摂り、筋肉の量を増やすために肉、魚、豆類などでタンパク質を摂って欲しい」と加えた。

田村准教授の資料から
田村准教授の資料から

「まだ若いし、やせているから」と自分の健康を過信するのは禁物。若い頃から生活習慣を整え、運動してしっかり食べて、糖尿病予防につなげよう。【アスレシピ編集部】