朝起きられず、午前中は具合が悪いのに夕方から元気になる。もし、わが子がそのような状況だったら「起立性調節障害(OD)」という病気を疑ってもいいかもしれない。

起立性調節障害は思春期に増えるとされ、「怠けているのでは?」「学校で嫌なことがあったのか?」と心の不調と誤解されやすいものでもある。治療、回復には家族や学校など、周囲の理解や支えが重要となるため、気になることがあったらこの夏休み中にわが子を観察してみて欲しい。起立性調節障害の病気のしくみや治療法、生活面での心がけ、家族の対応などについて、こころと美容のクリニック東京の大和行男院長に話を聞いた。

怠けているわけでも、メンタルの不調でもない

大和院長は「起立性調節障害の人は朝、登校時間に起きられません。やる気がない、怠けているなどと間違われやすいのですが、自律神経の調節機能がうまく働かなくなり、起立時に体や脳へ血を送ることができないために起きられない、れっきとした病気です」とメンタルの不調ではなく、身体の病気だと説明。「放置していても治らないため、早期治療が必要です」と穏やかな口調ながらはっきりと加えた。

自律神経とは、私たちの意思とは関係なく、呼吸や体温、血圧、心拍、消化、代謝、排尿・排便など体のさまざまな機能を調整している神経のこと。寝ている状態から起き上がるときにも自律神経(主に交感神経が活発になる)が働くが、このときに自律神経による制御がうまく機能せず、血圧の低下(正確には脳に流れる血液量が減少)や心拍数が適正に順応反応しないことで、脳に十分な血液が送られないために生じるのが起立性調節障害だ。

大和院長によると「人間にとって1番のストレスは朝に起床すること」であり、「抗ストレスホルモン」とも呼ばれ、副腎皮質から分泌されるコルチゾールなどの反応も適切に行われないことで、朝に症状として現れるのだという。

大和院長のもとには、血圧の上(収縮期血圧)が80~90mmHg程度しかない子どもや、数歩歩いただけで息が切れる頻脈症の子どもも多数訪れる。最初はメンタルの不調を疑われて家族に連れられてくる場合が多いが、検査をしていくことで原因が明らかになる。

やさしい口調で起立性調節障害について説明する大和院長
やさしい口調で起立性調節障害について説明する大和院長

遺伝、ストレス、生活の乱れから不登校に発展も

日本小児心身医学会によると、起立性調節障害は10~16歳の思春期の子どもに多く、軽症を含めると小学生の約5%、中高生の約10%に見られるという。男女比は1:1.5~2で、筋力の乏しい女子に多く見られる。

その半数に遺伝的要素もあることから最近急激に増えているというものではなく、以前から一定数いたと思われるが、家族のあり方の変化で目立つようになってきた。「昔は祖父母に送られて途中から登校することもできたが、現在は核家族化で両親共働きの家庭が多いため、親が学校に送り届けることができない。遅刻登校するのが嫌で、欠席する子どもが増えていると思われる」(大和院長)。

思春期になりやすい理由は、遺伝などの体質のほか、人間関係や受験勉強などのストレス、食生活の乱れ、SNSや動画、ゲームなどで就寝時間が遅くなるなどの不規則な生活なども影響するからだ。ただ、朝は具合が悪くても昼から夕方にかけて調子が上がり、親が仕事から帰宅する頃には元気に活動できるようになっているため、「サボっている」と思われがちだ。その姿を見た親は怒り、失望し、なじるケースもあり、夫婦や家族の関係が悪くなり、メンタルの問題にも発展することもある。

病気を放置してしまうと、完全なる夜型となって不登校になったり、自己肯定感が低くなって引きこもったり、日常生活に支障をきたす恐れがある。不登校の約30~40%に起立性調節障害や内科の病気が潜んでいるというデータもある。

めまいや立ちくらみ…起立性調節障害の主な症状

起立性調節障害の主な症状と合併症、依存症は次のようなものになる。

起立性調節障害の主な症状(日本小児心身医学会HPより)
・立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向がある。
・症状は立位や座位で増強し、臥位(がい、寝た状態)にて軽減する。
・夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになるが、重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともある。
・夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもある。

合併症・併存症
・身体面=概日リズム睡眠障害(睡眠障害)、失神発作(けいれんを伴うこともある)、著しい頻脈
・心理・行動面=脳血流低下に伴う集中力や思考力の低下、学業低下、長時間臥床など日常生活活動度の低下、長期欠席
・発達障害やその傾向性を伴う学校不適応や不登校

自宅で2点をチェック、低血圧と休日の状態

一般的に、思春期の子どもが朝起きられない理由や原因は単純な夜更かし、疲労の蓄積、風邪などで体調が悪いことも含めると多岐にわたるが、起立性調節障害かどうかを疑うポイントは2つある。当てはまることがあるかどうか、確認してみよう。

1、血圧が低い症状があるため、家族で毎日、血圧を計り記録する(ウェラブル計測器ではなく、上腕式血圧計が正確)。食事、睡眠、生活の記録も含め、最低1週間は記録する。
2、学校のない土日でも朝起きられないかどうかを確認する(不登校の場合、休日は元気になる傾向がある)。

上記の数値や状況などをまとめ、かかりつけ医や小児循環器科のある病院に相談しに行くと良い。「精神論や根性論の前にデータです。データは学校や担任にも共有し、共通認識を持って子どもをサポートできる」と大和院長は話し、早ければ3カ月ほどで治る子もいるという。

「高血圧とは逆」の食生活、安眠できる環境作り

治療としては、生活習慣を正しく整えることから始まる。子ども自身は低血圧のため、高血圧とは逆の治療をすることになる。例えば、水分や塩分をとることで、水は1日に最低2リットル、梅干しなどのしょっぱいものを食べるよう勧められる。

生活習慣を整えるためのアドバイスは次の通り。

食事としては、気分を安定させるためにタンパク質、貧血予防として鉄をしっかりとる。
午後6時以降はカフェイン(交感神経を活発にし利尿効果もある)を含む飲料を控える。
入浴はぬるめの半身浴で、熱いお湯に長時間入ることは控える。シャワーだけでも良い。
夜に交感神経を刺激するような激しい映像を見ないようにし、寝るときは、頭に血が留まるよう足を高くしたり、着圧ソックスを履いたりする。
ふくらはぎにあるヒラメ筋を鍛えるため、つま先立ちやかかとの上げ下げ、階段を歩くなどで全身に血を送るためのポンプ機能を高める。

人間の身体は眠っている時やリラックスしている間には副交感神経が優位になり、起床する時やストレスを感じた時、興奮した時には交感神経が優位になる。この2つの神経は自動で制御されており、シーソーの端と端に存在するようなもので、どちらかが優位になればもう一方は抑制される。

寝るときは副交感神経を優位にする必要があるので、交感神経を刺激するようなカフェイン、熱い風呂、サウナ、動画などは控え、リラックスした状態で睡眠をとれる環境を事前に整えることが大切となってくる。その上で、症状次第では薬を処方することもある。

親ができることはデータ集めと落ち着いた対処

大和院長は最後に、早期治療に向けて親ができることとして次のように話した。「親は子どもには元気に学校に通って欲しいと願うものだから、学校に行かないとなると悩む気持ちはとてもわかる。ただ、子どもが朝起きられない場合はその理由がどこにあるのか、先立つ感情よりも観察してデータを集めて欲しい。家族間で悩んだら専門医などの第三者を入れて話し合うことで解決することがある」。学校が休みとなり、少し時間のとれる夏休みこそ、子どもを見つめ直すチャンスかもしれない。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】

大和行男(やまと・ゆきお)

群馬県出身の精神科医師。新潟大学医学部卒業後、複数の病院で精神科、児童精神科を中心に研鑽を積む。医療法人社団先陣会の理事長で、2023年に児童精神科、精神科、皮膚科、小児科、アレルギー科、美容皮膚科、婦人科、内科を併設する「こころと美容のクリニック東京」を開院。オンライン診療で全国の子どもたちのこころのケアを行い、2023年8月1日からは都内で児童精神科の訪問診療事業を展開する。