新体操選手の長女のケガから「食」を考えるようになった嶋野麻美さん(大阪府摂津市)のレポート最終回です。スポーツ栄養を学ぶうちに、今では講師を務めるまでになり、大阪府の茨木新体操クラブとトライ新体操クラブの栄養サポートをしています。新体操選手は体重管理との戦い。現場でよく聞かれる質問や、指導してからの身体の変化の様子などを紹介してもらいます。

熱心に練習する茨木新体操クラブ
熱心に練習する茨木新体操クラブ

ごはん6:おかず4の割合

 私が指導しているのは、①ごはん②具だくさんのみそ汁③おかずといった「食アススタイル」です。選手や保護者から、このような質問をよく受けます。

質問1
 お米をたくさん食べるようになって、一旦、体重は増えたのですが、周りからはやせた? と言われるようになりました。その後、目標体重まで落ちました。食べなかった時には全く体重が落ちなかったのに、こんなにたくさんのお米を食べてなぜ体重が減少していくのですか?

2カ月の食トレ実践で健康的にシェイプアップしたトライ新体操クラブの選手たち(中央は嶋野さん)
2カ月の食トレ実践で健康的にシェイプアップしたトライ新体操クラブの選手たち(中央は嶋野さん)

 それまで炭水化物を抜いていたり、少しの量に設定したりしていた選手は、以前と比べるとびっくりするような量のお米を食べることになります。ごはんにはたくさんの水分が含まれて重量があるので、最初は体重が増えます。「これで本当に大丈夫?」「もう以前の(食べない)食生活に戻します」と不安に思う方も多いのですが、根気強く継続してもらうようにします。

 すると、「食事バランス」と「意識した食べ方」により、だんだん骨量や筋肉が増えてきます。これらは脂肪よりも重いので、またも体重は増加するか横ばいになりますが、さらに継続することで栄養のバランスが良くなり、代謝効率が上がり、身体の軸が整うのです。いわゆる「燃えやすい身体」になり、目標設定した体重に近づき、引き締まってきたという印象を与えるようになります。

 ですから、1カ月は必ず継続するよう伝えています。

練習終了後、午後9時以降の食事

 また、こんな声も多くあります。

質問2
 練習が終わるのが午後9時を回るので、帰宅後、食事を摂らせることに抵抗があります。食べさせたいけれど、食べたら太ると聞いたので、練習前に摂るようにし、練習後はサラダしか食べさせていません。

茨木新体操クラブの練習風景
茨木新体操クラブの練習風景

 確かに、食後の血糖値が高いまま睡眠に入ってしまうとホルモンの分泌により、太る原因にもつながりますが、ハードな練習後、栄養を摂らず寝てしまうのは、特に成長期のジュニア選手にはしてほしくありません。練習で消耗した栄養や、傷ついた筋肉などを修復させるための食事を摂らずに寝てしまうと、身体を回復させるために足りない栄養を、自身の骨や筋肉などから奪うからです。そうすると、内臓機能も弱り、寝起きが悪く、疲れが取れず、ケガをしやすくなってしまいます。

 特にジュニア期の選手だと回復するのに精いっぱいで成長するための栄養が不足するということにもつながります。身長が伸びない原因の1つになるかもしれません。ですから、練習の合間に補食を摂ることや練習終了後すぐに栄養補給することを強く勧めています。

 我が家では、送り迎えの車中でおむすびや弁当を食べさせながら子どもたちとの会話を楽しんでいます。帰宅後は、ごはんとみそ汁でしたら脂質はほとんどなく、負担は最小限に抑えられると思います。しっかりよく噛んで食べることがポイントです。

体重が落ちなかった選手も

100グラムずつ分けた補食用おむすび。練習後、雑穀米にシラスやかつお節、ツナなどで
タンパク質を摂れるように工夫
100グラムずつ分けた補食用おむすび。練習後、雑穀米にシラスやかつお節、ツナなどで タンパク質を摂れるように工夫

 一方、サポートする選手の中には、全く体重が落ちなかった者もいます。原因は特定できていませんが、以下が考えられます。

「よく噛む」が実践できていない
おかずが多く、バランスが悪かった
偏食が酷く、栄養が偏っている
ついついおやつを食べ過ぎる

 それぞれについて、説明しましょう。

食アス・ベーシック講座の風景。選手と保護者が受講中
食アス・ベーシック講座の風景。選手と保護者が受講中

 「よく噛む」が実践できていない選手は、胃腸のウオーミングアップができていない状態で食べ物が入ってくるので、消化吸収の機能や栄養を受け止める身体の機能が高まっておらず、効率よく栄養吸収ができません。

 栄養は過不足なく摂ることが大切ですが、おかずが多すぎるとその分脂質が増え、過剰摂取の原因にもなります。日頃の食事は雑穀米、具だくさんみそ汁と一菜で十分です。

 栄養は何か1つ欠けると、それだけ消耗しにくくなります。食物アレルギーなどの問題がなく、ただの好き嫌いならば、トレーニングと位置づけ、自分で調理して食べられる方法を見つけていきましょう。アレルギーで食べられない場合でも、補える食材はあるはずですので医師と相談しながら向き合いましょう。

 おやつを食べ過ぎてしまう選手に聞き取りすると、ほとんどの選手が自分の食べなければならないお米の量を食べておらず、しっかり噛めていません。十分な糖が脳に届いていないと満腹感が感じられず、脳が糖を欲します。

 問題を1つずつ解決し、しっかり取り組んでいる選手は、目に見えて変化が出てきます。ジュニア期に正しい食生活を身につけることは「食で、心も身体も強くする」ことにつながります。競技生活において素晴らしい結果を残すことだけでなく、これからの将来、人生での宝物にしてほしいという思いで指導を続けていきます。

嶋野麻美(大阪府摂津市)

食アスリートJr.インストラクター、健康食育Jr.マスター、キッズコーディネーションインストラクター。
大体大健康科学コースでスポーツ医学について学び、中・高等学校1種免許(保健体育)。茨木新体操クラブにて指導補助、食事指導を行っている。
中学3年の長女、小学校3年の次女は新体操、小学校5年の長男はサッカーに奮闘中。

* 第1回:[娘が腰椎分離症、私が新体操の「食」を考えるようになった訳](https://athleterecipe.com/column/20/articles/1772586)