<キッチンは実験室(7):ゼリーを通じて唐揚げを考える>
みなさん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」です。今回は、ゼリーを通じて唐揚げについて考えるというお話です。これだけでは一体、何のことだか分からないと思いますが、いつものように実験からスタートしましょう。
<実験>
用意するもの=パイナップル(生と缶詰)、ゼラチン
①同じ大きさのゼリーを2つ作る
熱湯50ccにゼラチン5gを溶かした後、缶詰パイナップルのシロップ150ccを入れて冷蔵庫に入れる。固まったら出来上がり。
②1つのゼリーに生のパイナップル、もう片方に缶詰パイナップルをそれぞれ1かけ乗せる
すると…どうでしょう。
③経過
5分後=生のパイナップルのお皿に汁がたれてきた。
15分後=何と生パイナップルが滑り落ちる事態に…。
そうやって何度も乗せ直して…
60分後=両方とも重さで軽く崩れましたが、生パイナップルの方はゼリーの形がなくなり、水っぽく、びしゃびしゃした状態になりました。
なぜ、このような状態になったのでしょうか。それは、生パイナップルにだけに含まれる「あるもの」によって、ゼラチンが溶けたからです。
ゼリーはタンパク質
「あるもの」の正体を明かす前に、ゼリーについて簡単に説明します。
ゼリーは、ゼラチンをジュースや砂糖で固めたもの。そのゼラチンは、豚や牛の皮や骨、魚などの成分から出来ています。あのプルプルとした感じ…それは、お肉を煮込んだときにできる煮凝りと同じく「コラーゲン」と呼ばれるものです。
コラーゲンは人間の体に約20%含まれているタンパク質(結合組織)で、組織の細胞をつなげ、衝撃から守る働きをしています。
そんなタンパク質であるゼラチンがなぜ溶けたかというと、生パイナップルに含まれる「ブロメラン」というタンパク質分解酵素のせいです。これにより、ゼラチン(タンパク質)が分解され、組織同士をつなげている“鎖”が短くなり、バラバラになったのです。
酵素もタンパク質
その「酵素」もタンパク質の1つで、体の中の化学反応を早くしたり、遅くしたりといった化学反応を助ける働きをします。また、働きやすい温度があり、加熱しすぎると機能を失います(タンパク質の失活)。つまり、一度加熱処理された缶詰パイナップルのタンパク質分解酵素は働かなくなっていたため、生のパイナップルだけが溶けたのです。
分解酵素を逆手に利用
このように、パイナップルやリンゴなどタンパク質分解酵素を持つ果物でゼリーを作ろうとしても、ゼラチンが固まりません。しかし、この性質を利用して、料理に活用することができます。
例えば、唐揚げ。下準備の際、鶏肉300gに対し、4分の1かけ程度のリンゴのすり下ろしを加えると、タンパク質である鶏肉が分解されて柔らかくなり、冷めてもジューシーに食べられます。リンゴの代わりに、キウイやパイナップルを使ってもOKです。酢豚にパイナップルが入っているのは、甘さや酸味などの味のバランスに加え、豚肉を柔らかくするためだとも言われています。
体内にもタンパク質分解酵素が
私たちの体の中にも、タンパク質を分解する酵素があります。胃から出る消化酵素「ペプシン」はタンパク質をアミノ酸に分解させます。やがて、そのアミノ酸は小腸で吸収され、タンパク質を合成する酵素によって新しい細胞や筋肉につくられていくのです。
「ゼリー」「ゼラチン」「唐揚げ」「酵素」。
今回出てきた言葉は、すべてタンパク質に関係しています。タンパク質である酵素が、タンパク質であるゼラチンを分解していたなんて、とても面白いですよね。タンパク質でできている私たちの体は、古くなった部分を外に出し、新しい体を作り出しています。栄養素を取り入れながら毎日、体をリニューアルしているのです。
実験で残った缶詰のパイナップル果肉は、ゼラチンで固めてパイナップルゼリーとして食べましょう。上に生パイナップルを乗せると、その部分が水っぽくなります。食べながらの実験もおすすめです。
生パイナップルで口の中が…
生のパイナップルを食べて、舌が痛くなったことはありませんか? 実は、生パイナップルのタンパク質分解酵素が口の中の毛細血管に作用して、血管を破れやすくしていたのです。また、パイナップルに含まれるシュウ酸カルシウムは針のような結晶をしているので、それでピリピリ刺激があったのかもしれません。
・子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
・東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
・国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター