<キッチンは実験室(10):ロールキャベツのお肉の色>
皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。本年もよろしくお願いいたします。
さて、今回は冬にピッタリなロールキャベツを使って、簡単な科学実験を行いましょう。
ロールキャベツは、ハンバーグのタネを作り、それをゆでた(蒸した)キャベツに巻いて煮込むものですが、タネになぜ塩を入れるのか、なぜ煮込んだのにお肉が少しピンク色なのか、疑問に思ったことはありませんか?
そこには化学の不思議が潜んでいるのです。
<実験1:どうしてハンバーグに塩を入れるの?>
■用意するもの
A:合いびき肉=50g、塩小さじ1/2
B:合いびき肉=50g
■方法
それぞれ2、3分間、こねて変化を見てみよう。
■解説
こねていると、ひき肉に塩を入れたAは粘りが出てきました。
これは筋肉(筋原線維タンパク質)の「アクトミオシン」という成分が塩に溶け出し、肉全体に広がったからです。このタンパク質は紐状ですが、練ると網目状になります。熱が加わるとタンパク質の構造が変わって(熱変性)粘りが弾力となり、さらに網目構造の中に肉汁が閉じ込められるので、ジューシーに仕上がるのです。
ちなみに、ひき肉を練った後にタマネギのみじん切りやパン粉を入れるのは、網目構造に固形物を入れてもろくし、ソフトな食感を出すためです。パン粉で肉汁を吸わせる狙いもありますが、最初は吸いにくいので、あらかじめ牛乳でしめらせてから使います。卵は熱で固まるのでつなぎに。ひき肉のタンパク質、タマネギも材料全体をつなぐような働きがあるので、肉汁を逃さずに焼き上げることができるのです。
<実験2:お肉の色が変わる?>
次は、Aにキャベツを加えた実験です。
■用意するもの
A=合いびき肉50g、塩小さじ1/2
C=合いびき肉50g、塩小さじ1/2、キャベツ千切り20g
■方法
Cは、キャベツの千切りが全体に混ざるようにして、それぞれ丸くボール状にし、ラップで包みます。
電子レンジ(500W)で3分間温めます。
■解説
すると、Aは灰色になったのに対し、Cは少しピンク色に変化しました。
肉の色を決めるのは、肉内にある「ミオグロビン」という色素。人間の血液の色素(ヘモグロビン)と同じ仲間のタンパク質で、酸素と結合したり離れたりする性質があり、それに伴い色が変わります。
このとき、キャベツに含まれる「亜硝酸塩」という物質と結合すると、「ニトロミオグロビン」に変化してピンク色になるのです。ロールキャベツの肉がピンク色の理由は、ここにあります。
ハムがきれいな色の理由
この「亜硝酸塩」は添加物として、ハムなどの肉加工品の発色剤としても使われています。
<発色剤の働き>
①色をよくする働き(ハムやソーセージ特有の天然の色を引き出す)
②肉臭さを消して風味を豊かにする働き
③ボツリヌス、細菌の食中毒菌の増殖を抑える働き
発色剤を用いない無塩せきのハムもありますが、どうしても色は加熱した肉そのものの褐色で、一般的にあまり日持ちせず、また原料肉の独特なにおいも残っています。
発色剤や添加物は危険なの?
「添加物は危険」とあおるメディアもありますし、過剰反応する方もいます。消費者の1人として、私も摂らないに越したことはないと思っています。その一方で、食品添加物は毎日食べ続けても安全な量(一日摂取許容量)が法律で決められていており、専門家によって日々、安全性が検証されています。
実は、日本人の亜硝酸塩の摂取量の9割が「野菜・海藻から」といわれています。ハムなどの加工品を避けても、野菜や海藻から摂っている可能性もあります。亜硝酸や硝酸は土の肥料としても使われていて、農業のあり方にもつながる問題も絡んでいるのです。
さて、子どもがハンバーグを失敗しやすい理由は、ちゃんと材料が混ざっていないため、ボロボロこぼれてしまうからだと言われています。まずはお肉と塩をしっかり混ぜて粘りを出し、その後にタマネギ、卵、パン粉、その他の野菜のみじん切りなどを入れる手順にしてみましょう。
今回の実験を通じて、色の不思議や化学反応を感じていただけましたでしょうか。理解すると、ちょっとしたことで料理がおいしくなったり、失敗を減らせたりするかもしれません。
今後はもっと、知って得するような料理のコツに注目していきたいと思います。ご意見やご希望がありましたらお気軽にお寄せください。
・子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
・東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
・国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター