<どら焼きから見る膨らみと焼き色の科学>

 皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。今までは親子で楽しめる「食育科学実験」をテーマにお送りいたしましたが、今回から新シリーズ「知って得する食育科学」をお伝えしていきます。第1回は「どら焼き」にちなんだお話です。

なぜ、どら焼きには重曹か

 どら焼きの作り方はさまざまですが、生地はふわふわしているというより、しっとりしています。それは、膨らますための「粉」に秘密があるからです。重曹とベーキングパウダーを使って実験してみましょう。

<実験1>冷たい水で反応を見る

A:冷たい水(50cc)に重曹(大さじ1)を入れる
B:冷たい水(50cc)にベーキングパウダー(大さじ1)を入れる

→結果:Bのみ、ぶくぶく泡が立った。

<実験2>お湯で反応を見る

A:お湯(50cc)に重曹(大さじ1)を入れる
B:お湯(50cc)にベーキングパウダー(大さじ1)を入れる

→結果:A、Bともにぶくぶく泡が立った。

 実験1、2ともに化学反応が起こったわけですが、その内容は違うものです。

 実験2のように熱で反応したのは、重曹、ベーキングパウダーにそれぞれ含まれている炭酸水素ナトリウムが分解され、二酸化炭素が発生したためです(加熱分解反応)。

 実験1では、ベーキングパウダーだけが冷たい水に反応しました。ベーキングパウダーには、アルカリ性の炭酸水素ナトリウムのほか、酸性の物質がたくさん含まれています。水を加えることで、アルカリ性と酸性の中和反応が起き、二酸化炭素が発生。これは温度に関係なく、水に対して起こるものなのです。

 どら焼きやホットケーキなど、お菓子や料理を膨らませるのは、化学反応で生じた二酸化炭素を利用してのことです。ただし、発生する理由は同じでなく、違うものだったのですね。

 まとめると、
重曹=熱に反応
ベーキングパウダー=熱、水に反応

 昔から「重曹はふわっと横に、ベーキングパウダーはふっくら縦に膨らむ」と言われる由縁も、成分の違いにあります。それぞれの特徴を知り、料理に生かすのが、上手な使い方です。

特徴生かし、料理で使い分け

 それでは、具体的に日頃の料理ではどのように使い分ければいいでしょうか。

 重曹は水と反応しないので、生地を作って寝かせることができますが、ベーキングパウダーは牛乳や卵の水分とすぐに反応してしまいます。そのため、ベーキングパウダーは焼く直前に混ぜるのがポイントです。

 また、ベーキングパウダーは水蒸気とも反応してしまうため、封を開けたらすぐに使い切るか、密閉保存をしなければなりません。私は使いかけの缶を冷凍庫に保存しています。

どら焼きを茶色くするのは?

 さて、どら焼きには、きれいな茶色の焼き色がついています。この色を出すために、生地にみりんを入れていることをご存じでしたか? 以前もお伝えしましたが、「こげ」にも科学があります(「お菓子を食べすぎると、からだが焦げる?/キッチンは実験室(1)」)

 こげの原理を簡単に説明すると、砂糖の中で還元基を持つ(還元糖)、みりんやはちみつは加熱すると、タンパク質のアミノ酸と反応するのでこげ色がつきます。対して、グラニュー糖には還元基がないので、こげません。従って、こげ色をつけたくないお菓子にはグラニュー糖を、こげ色をつけたいどら焼きや照り焼きなどの料理には、みりんやはちみつを使うのです。

 ちなみに、「どら焼き」の名の由来は、形が打楽器の銅鑼(どら)に似ていることからという説が有力だそうです。水と反応しない重曹のおかげで生地を寝かすことができ、膨らみ過ぎない厚みの生地となり、みりんのおかげできれいな焼き色になっている。昔の人の知恵が、そのおいしさを支えているのかもしれませんね。

 バレンタインやホワイトデーの季節。どら焼きをアレンジして、手作りの味を楽しんでみませんか? 小倉あんを白あんとチョコを混ぜたチョコあんに、季節を先取りして桜の塩漬けでさくらあんに、野菜ペーストで野菜あんに、つぶあんとこしあんで食感の違いを感じたり。

 このように、料理はまさに科学です。ちょっとした科学の豆知識で、失敗が少ない、おいしい料理作りにつながるのではないでしょうか。そんなお話ができるように、これからも頑張っていきたいと思います。

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター