<ホワイトソースとダマの科学>

 こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。春といえば、キャベツ、ブロッコリー、菜の花…が旬の野菜ですね。そんな春野菜を使ったシチューに焦点を当ててみたいと思います。

 皆さんはシチューを作るとき、市販のルーを使いますか? 手作りですか? 手作りすると、「ダマ」になりやすいと敬遠されがちなホワイトソース(ベシャメルソース)ですが、科学を知ると失敗なく作ることができるんですよ。

ホワイトソースの基本
 用意するのはバター、小麦粉、牛乳の3つ。工程はバターを溶かし、小麦粉を炒めてとろみをつけ、牛乳を加えて加熱。

なぜダマになるの?

 そもそも「ダマ」とは何でしょう? その正体は、小麦粉に含まれる「でんぷん」です。これに粘りがでてしまうと、ダマになるのです。

 でんぷんに粘りがでる温度は50~60℃。また、小麦粉が水とうまく溶け合っていないと、小麦粉の小さい粒(微粒子)同士がくっつき、粘りのある状態になってしまいます。これらのことを踏まえると、ダマを防ぐポイントは以下の2つです。

<ダマを防ぐポイント>

①牛乳と混ぜるときに、バターで表面をコーティングするなどして小麦粉の粒同士がくっつくのを防ぐ。
②粘り(糊化)がでる温度を避けて混ぜる。

 これを、ホワイトソースを作る手順に沿って解説してみましょう。

よく炒め、よく混ぜる

 まず、鍋に火をかけてバターを溶かします。一度火を消し、小麦粉を入れて木べらで混ぜます。バターの水分も粘りの原因になるため、火からおろして混ぜるのがポイント。よく混ざったら弱火でじっくり炒めます。ある程度混ざったように見えても、最低10分間は混ぜましょう。最初はぼそぼそしていますが、だんだん滑らかなクリーム状になってきます。

 このとき、鍋の中の小麦粉の微粒子はバターとなじみ、コーティングされている状態。微粒子の内部も高温によって部分的にでんぷんが分解され、分子が小さくなってでんぷん鎖が短くなり、絡みにくくなって粘りの少ないソースとなるのです。

※炒めることででんぷんの分子が小さくなり、粉っぽさがなくなるとともに、小麦に含まれるアミノ酸や糖にメイラード反応が生じます。新たな風味が生み出され、粉くささが抑えられる理由にもなります。

牛乳との温度差

 炒めて熱くなったルーは一度冷まします。その間に牛乳を60℃程度に温め、冷えたルーに加えます。泡だて器で混ぜながら火にかけ、ソースにとろみがついたらルーが溶けた証拠。その後、弱火で煮込んで完成です。

 ここでのポイントは「温度差」。とろみが生じる50~60℃になる前に、ちゃんと混ざっていないとダマになります。そこでまずルーを冷まし、牛乳とよく混ぜて(分散)から火をかけて、でんぷんの糊化を起こすのです。

 冷たいルーに冷たい牛乳を加えた場合、ルーのバターが固まってしまい、うまく混ざりません。また、熱いルーに熱い牛乳を加えた場合、ルーの小麦粉の微粒子が牛乳とまざる前に、でんぷんが糊化してしまいます。

 「温度差」が肝心なので、私は上記と逆で、ルーは温かい状態のままにし、冷たい牛乳を一気に入れて泡立て器でかきまぜる方法をとります。効率は悪いのですが、少量作るときは簡単にできるのでおすすめです。

<おさらい:ダマにならないコツ>

炒める(バター+小麦粉)
①バターと小麦粉をよく炒める
②バターを溶かし、火を止めてから小麦粉を入れる
③弱火で10分、トロトロになるまで炒める

混ぜる(牛乳+ルー)
①牛乳を加えるときに温度差をつけること(一度火を止める)
③冷やしたルーに温めた牛乳を入れる、もしくは温かいルーに冷たい牛乳を加える

 これらのポイントを抑えれば、どなたでも失敗せずにホワイトソースを作ることができます。時にはソースも、素材を生かした手作りにチャレンジしてみてください。最後に、私がよく作るホワイトソースの作り方と、アレンジ方法をお伝えします。

みせす流ホワイトソースの作り方
<材料>
・バター 30g
・小麦粉 30g
・牛乳 300cc
・塩、コショウ 少々

<手順>
(1)フライパンでバターを溶かす
(2)火を止めて小麦粉を入れて木べらでよく混ぜる
(3)弱火にして木べらで10分炒める
(4)とろとろになったら火を止め、冷たい牛乳を一気に入れる
(5)泡だて器で混ぜ、火にかける
(6)塩、コショウを入れて味を調える。弱火で焦げないように混ぜる。

 ソースを作っている間に、別の鍋で鶏肉、ニンジン、春キャベツなどの野菜をコトコト煮込んでおきます。ホワイトソースが出来たら加えて、牛乳で濃さを調整したらシチューの完成です。

 余ったソースは冷凍保存しておき、グラタンやクリーム煮などの料理に活用できます。弱火で120℃程度に炒めた甘いルーがホワイト・ルーで、170℃程度で香ばしく炒めた褐色のものがブラウン・ルーとなり、ブラウンシチューになります。万一、ルーがダマになってしまったら、ブレンダー(ミキサー)にかけて撹拌(かくはん)してください。