<煮卵の科学:下>
皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。前回のコラム「ゆで卵は水から作る?お湯から?」で、ゆで卵を上手に作る温度や時間についてお話ししました。今回は、卵の殻をむきやすくする科学をお伝えします。
新しい卵より古い卵
新しい卵より数日たった古い卵の方がむきやすいというのは、ご存知ですか? むきづらいのは、卵の殻と卵白の膜がしっかりと結びついているから。その膜は抗菌作用などがあり、微生物の侵入を防ぐ働きをしているため、新しいものほど密着しているのです。
そのため、ゆでる前に卵の殻に画びょうなどで穴を空けておくのも1つの方法です。穴を空ける場所は卵の底、丸みを帯びた方にしましょう。そこは気室といって、元々空気が入っているところなので、中から白身が飛び出ることが少なく、膜の間に隙間をつくれます。
また、卵白には二酸化炭素が溶け込んでおり、これが産卵と同時に気孔を通って外に出ていくため、次第にpHが上がってアルカリ性になっていきます。すると、卵の中の体積や重さが減っていき、殻の膜間に隙間ができてむきやすくなるのです。
ちなみにpHが上がると起きることがもう1つ。新鮮な卵は、卵黄が盛り上がっているように見えますが、この弾力構造をつかさどる卵白中の成分(オブムシン)の一部が、pHの増加によって溶けていくため、濃厚な卵白がびちゃびちゃした水様卵白に変わっていきます。卵黄と卵白の間の層(カラザ層)も卵黄から離れ始めるため、卵黄が平らに広がったり割れたりします。
ゆで上がったらすぐ冷水に
さて、卵がゆであがったらざるにあげて、すぐに冷水に入れましょう。そのままにしていると、卵殻膜と熱で膨張した卵白がくっついてしまいますが、急激に冷やすと卵白が縮こまり、隙間ができます。水に浸しながらむくと、その隙間に水が入り込み、よりむきやすくなります。
黄身が黒ずむ原因は?
卵をゆですぎたり、急冷しなかったりしたときに、黄身の白身に接している部分が黒緑色になったことはありませんか? これは卵白の中に入っている含硫アミノ酸が加熱で還元されて硫化水素になり、卵黄に含まれている鉄と結び付いて硫化鉄(FeS)になるためです。卵を急冷することで内部の圧力が下がり、卵黄と結びつく前に気孔から逃がすことができます。
さあ、殻がむけたらつけ汁に入れましょう。一般的には、半日以上つけたら出来上がりですが、お好みの味付けを見つけてください。1度に作って冷蔵保存可能ですが、数日程度で食べきりましょう。
子どもでも作れる簡単な、されど奥深い料理が「煮卵」。最後にみせす流のレシピをつけて、締めくくります。
■みせす流「煮卵」のレシピ
<材料>
A=煮卵のつけ汁(卵1パック分)
・しょうゆ 大さじ5
・みりん 大さじ5
(お好みで砂糖 大さじ1)
<作り方>
(1)卵を常温に出しておく
(2)小さな鍋にお湯を沸かしておく(水の量は卵にお湯がかぶるくらい)
(3)お湯を沸かしている間に、卵に画びょうなどで小さな穴をあけておく
(4)沸騰したら優しく卵を入れて中火に
(5)ふたをして中火で6分(必ず時間は測るのがポイント)
(6)6分たったらすぐにお湯を捨ててざるにあげる
(7)すぐに冷水で冷やす(余熱で卵が固まらないように)
(8)冷えたら水の中で殻をむく
(9)保存容器で、Aのつけ汁に12時間以上つける
つけ汁は色々アレンジできますし、お弁当に入れたり、ラーメンのトッピングにしたり、使い方もさまざま。オリジナルの煮卵を作ってみて下さい。