<固まる科学・上>
皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。夏にぴったりのデザートといえば「ゼリー」。自宅で簡単に作れるデザートなのに、固まらなかったという失敗をしたことはありませんか? せっかくのゼリー作りを絶対に失敗しないために、今回は「固まる科学」をお伝えします。
固まる食材と違い
まず、固まる食材にはゼラチン、寒天、アガー、ペクチン…などがあります。これらは「ゲル化剤」と呼ばれ、ゲル状に固めてくれる働きをもっています。
違いは原材料。ゼラチンがタンパク質なのに対して、ほかは多糖類。つまり、炭水化物であり食物繊維です。
(1)動物由来:ゼラチン(牛や豚の皮や骨)
(2)海藻由来:寒天(テングサ、オゴノリ)、カラギーナン(スギノリ、ツノマタ)、アルギン酸(コンブ、ワカメ)
(3)植物由来:ペクチン(リンゴ、柑橘系など)
この中でゼリーのようにしっかり固まるゲル化剤はゼラチン、寒天、アガー。アガーは、カラギーナンを主成分とするものや、マメ科の種子(ローカスビーンガム)が混合されている場合もあります。一方、アルギン酸やペクチンは、ふるふる固まるジュレやジャムなどの増粘剤として応用されています。
いずれも組織に、長い鎖のような形を持っており、規則正しく並んだり、絡み合ったりして、組織を支えています。お湯で溶かすと、少しずつこの鎖が溶け、バラバラに動きだします(ゾル化)。冷たくすると、分子の鎖が引きつけあい、3次元の網目構造を作り出します。この時に網目の隙間に水分が包まれて保持されるため、ぷるっと粘弾性を持ったゼリー状に固まるのです(ゲル化)。
以前のコラムで、ゼラチンやペクチンについて紹介したので、今回は「寒天」にフォーカスします。寒天はテングサ、オゴノリなど紅藻類(赤い海藻の仲間)の細胞壁からとれる成分です。なお、アガーも同じ紅藻類の海藻の仲間で同じ炭水化物からできていますが、寒天と多糖類の主成分が違い、粘弾性は寒天とゼラチンの中間。こちらについてはまた機会があれば、お伝えします。
寒天の特徴が分かる実験
さて、寒天の特徴を伝えていく前に、実験をしてみましょう。
■用意するもの
・オレンジジュースにゼラチン、寒天を加えて作ったゼリーを2つずつ。
■実験1
それぞれのゼリーに生パインをのせる。
↓
その結果、ゼラチンのゼリーだけが少しずつ溶ける。
■実験2
40℃程度のぬるま湯を2種類のゼリーに上からかける。
↓
その結果、ゼラチンのゼリーだけ溶ける。
寒天、ゼラチン。同じゼリーでも、素材によって性質が違うことが分かりましたね。それでは、それぞれ解説します。
溶ける温度の違い
●ゼラチン
溶ける温度は40~50℃。溶かすとき、ぬるま湯でも、冷水でふやかして電子レンジで温めてもできます。逆に100℃以上の加熱は避けましょう。タンパク質のため、高温で性質が変わり(タンパク質の変性)、固まらなくなってしまいます。
●寒天
溶ける温度は90~100℃。沸騰させないと溶け残りができることがあるので、沸騰後も弱火で数分かきまぜた方がいいでしょう。
固まる温度の違い
●ゼラチン
固まる温度は10℃以下なので、冷蔵庫に入れて冷やします。
●寒天
30℃~40℃の常温で固まる性質があります。
食感の違い
●ゼラチン
口の中の温度で溶けてしまうため、柔らかく口溶けがよいのが特徴です。パイナップルやキウイなどの果物の酵素が加わると固まりません。
●寒天
口の中ではとろけず、つるんとしたのどごしが特徴的です。硬さによって、かみ応えがあったり、粘りがなくもろいなどさまざま。生フルーツとの相性もばっちりです。
ちなみに、アガーは60~100℃で溶け、30~40℃の常温で固まります。食感はゼラチンと寒天の中間のようで、多くは市販のお菓子の増粘剤として使われています。
ゼリー作りを失敗しないためには、使う材料の特徴を知り、温度管理をしっかり把握することです。常温で固まる寒天は、暑い夏でも持ち運びに便利ですし、冷やさずに固まるので大量に作りやすく、果物も入れられます。水溶性の食物繊維のため、腸内環境を整えてくれ低カロリーというメリットがあります。