<アスレシピ特派員紹介>

阿部優さんは自宅で料理教室を行いながら、2021年にスポーツ栄養に関する資格を立ち上げました。学ぶだけにとどまらず、講師としての活動を目指す方には、独立まで徹底的にサポート。女性が輝いて生きるための方法として、身につけた知識を生かす提案をしています。【聞き手=アスレシピ編集部】

阿部優さん
阿部優さん

夢だった設計の仕事、でも…

阿部さんは工学部出身。就職活動では、飛行機や車の設計士を目指していました。

「就職の頃は氷河期と言われる時代。さらに技術職では、女性の求人が全くと言っていいほどありませんでした。それでも幸運なことに1社から縁をいただき、大学卒女性で初の技術職として13年勤務しました」。

念願の設計の仕事に没頭する毎日。出産後も半年で復帰し、お子さんは朝7時から夜9時まで保育園に預けていました。

「仕事帰りに保育園に迎えに行き、9時半過ぎに帰宅。買っておいたお総菜をレンジで温めて食べさせ、お風呂に入れて10時には寝かせるという生活でした。子どもが寝た後にも仕事がしたくて、ゆっくりおしゃべりを楽しむでもなく、とにかく早く寝て~! という感じでした」。

おとなしかった息子さんですが、だんだんと変化が表れてきました。

「大人にとってすごく『いい子』だったのが、次第に神経質になり、夜によく眠れない様子だったり、保育園でお友だちに意地悪をしたりということが起こり始めました。不安になって育児書を読むと、3歳になるまでは母親が育児に専念しないと成長に影響を及ぼすという、いわゆる『3歳児神話』が書かれていました。私自身は専業主婦の母親が毎日たくさんのおかずを食卓に並べ、おやつは手作りケーキという環境で育ちました。あぁ、この子が不安定になってしまったのは私のせいだ、と思い詰めてしまったんです」。

そうなると、楽しかった仕事がどんどん楽しめなくなっていきました。異動の希望を出してみるも叶わず、精神的にもすっかりまいってしまいました。

「もう正社員として働くのは無理だなと思い、退職しました。35歳の時です。でも、引退するには早すぎる。そこで、自分も母のしてくれたようにしてみたいと思い、『10年後に自宅で料理教室を開く』ということを目標に掲げました」。

すぐに近くのクッキングスクールの講師育成コースに入会。前の職場でも新入社員教育やパソコン指導などを経験していたため、人前で話すことに抵抗はありませんでした。トントン拍子に講師資格を取得し、5年ほどで独立。最後の3年は講師を育てる仕事も担当しました。

スポーツ栄養をレシピに落とし込んで

自宅での料理教室は、きらびやかなおもてなし料理ではなく、家族のために作る日々の食事をテーマにしています。

「生徒さんには、盛り付けも大事にしてほしいとお伝えしています。おいしく見せるコツは『余白2割』。ミニトマトなどの赤い添えものは、主張が強いので全体の2割までに抑えるのがポイントです。色を考えて、赤タマネギやスプラウトなどをいくつか買っておくといいですよ。忙しい日はお総菜を買ってきてもいいんです。お気に入りのお皿に盛り付けて、彩りを添えれば、後ろめたさも感じずに済みますよ」。

美しいテーブルコーディネートも評判の料理教室。コロナ禍にはオンラインで実施しました
美しいテーブルコーディネートも評判の料理教室。コロナ禍にはオンラインで実施しました

彩りを添えるだけでテーブルがぐっと華やぎます
彩りを添えるだけでテーブルがぐっと華やぎます

アスレシピに投稿するレポートでも、美しい写真が目を引きます。

「実は、息子たちを上手に撮りたくて、写真も勉強しました。今ではチームの撮影担当もしています。料理を撮るのとは少し違いますが、応用できているような気がします」。

「何事も、教えられるレベルまで極めたい」という阿部さん。写真も勉強し、今ではチームの撮影も担当
「何事も、教えられるレベルまで極めたい」という阿部さん。写真も勉強し、今ではチームの撮影も担当

阿部さんが撮影した次男の試合シーン
阿部さんが撮影した次男の試合シーン

2人の息子さんはすくすくと成長し、ともに小学1年生から地域の少年野球チームに入りました。

「長男は練習も休まず、素振りも毎日するまじめな子。でもなかなか試合に出られず、ようやく出られるようになったのが4年生の秋でした。ところが喜んだのもつかの間、5年生になる直前に、肘を複雑骨折してしまったんです。ショックでした」。

阿部さんは、なんとか食事で早く治せないかと調べ始めました。

「骨折だからカルシウムでしょ、と思っていたのですが、調べてもなぜか『カルシウム』というワードが出てこない。代わりに『タンパク質』や『糖質』なんかが出てきて、あれ、私の信じていた常識って何だったんだろう? と」。

調べていくうちに「スポーツをする人のための栄養学」があることを知りました。ケガが治るまでの1年間、勉強し、アスリートフードマイスターやスポーツフードアドバイザーの資格を取得。チームメートのお母さんと話していても、スポーツ栄養について知られていないと感じることが多くありました。

「料理教室の時にも、『今こういうことを勉強していてね』と話すと、そのテーマで講座を開いてほしいとリクエストされるようになったんです。それで、2019年からスポーツをする子どものための座学と料理のコースをスタートしました。『スポーツ栄養』というと難しく思われがちですが、料理教室をしている私だからこそ、レシピに落とし込んだ形でわかりやすくお伝えすることを心がけています。忙しい毎日でも実践しやすいよう、便利な調理家電や上手な手間の省き方などもお伝えしています」。

身につけた知識を子育てと両立できる仕事に

2021年の春からは、スポーツ栄養に関する資格講座も立ち上げました。

「『スポーツジュニア食育コンシェルジュ』という資格です。スポーツをする子どものための座学と料理のコースをスタートして、有名選手のお母さま方からも問い合わせをいただくようになりましたが、皆さんお子さんのためにすごく勉強され、実践し、結果にも結び付いているのに、その知識を伝える術を持っていない。それがすごくもったいないと感じ、身につけた知識を仕事にもつなげていきましょうよ、という提案として、講師認定コースも作りました」。

認定講師の皆さんとの勉強会
認定講師の皆さんとの勉強会

根底には「正社員を挫折してしまった」という思いがあります。

「母親って、子どものことで働き方が左右されてしまう部分が少なからずあるのではないでしょうか。私は、正社員を続けることはできなかったけれど、一生仕事を持って生きていきたいと思っています。子どもとの時間も大切にしながら、できる仕事って何だろう。そう考えた時、自分でスケジュールが調整できる教室業など、『個人事業主』という働き方が理に適っているのではないかなと考えたんです」。

講師認定コースでは、教室運営のノウハウも伝えています。

「私の目指すところは『スポーツをする子どもを支えるお母さん』を支えること。日々頑張っているお母さんたちと同じ目線でいることを大切にしながら、きちんと収入を得ていくために、情報発信の仕方から事務手続きまでしっかりレクチャーします」。

講師コースを修了すると、認定証と名刺をプレゼント
講師コースを修了すると、認定証と名刺をプレゼント

アスレシピをご覧の皆さんには、スポーツ栄養の知識は、お子さんが本格的に競技スポーツを始める小学3年生くらいから学んでほしいと話します。

「ケガを防ぐための食事などは、早く知っておくに越したことはありません。まずは、アスレシピのコラムを片っ端から読むところから始めてみてほしいですね。そして、できれば指導者の皆さんにも、食事や水分のとり方などを知っていただけたらと思っています」。

阿部さんの投稿から。自身の講座で受けた質問を参考に、テーマを考えています
阿部さんの投稿から。自身の講座で受けた質問を参考に、テーマを考えています

阿部さんのレシピも掲載「アスリートレシピ」

アスレシピでは、スポーツに励むお子さんや家族を食で支える特派員・サポーター考案のレシピをまとめた「成長期の子どものためのアスリートレシピ」を発行しています。

阿部さんのレシピ「菜の花と炒り卵のちらし寿司」
阿部さんのレシピ「菜の花と炒り卵のちらし寿司」

サイトで紹介してきたたくさんのレシピから、今回は主食・お弁当・補食の100品を厳選。卒業式や入学式など、お祝いの日にもぴったりの阿部さんのレシピ「菜の花と炒り卵のちらし寿司」も掲載されています。各家庭でスポーツを頑張る子どもたちに作られてきた料理の数々を、皆さまの毎日にもぜひお役立てください。プリントオンデマンド(POD)と電子書籍があります。