<アスレシピ特派員紹介>
松尾光恵さんは、高校2年と中学3年の男の子、小学6年の女の子のお母さんです。2人の男の子は、ともにクラブチームでサッカーを頑張っています。自らがスポーツ栄養を知った時、「もっと早く知りたかった」と思ったことから、成長期前のお子さんを持つ方に知識を伝える活動にも力を入れています。【聞き手=アスレシピ編集部】
野菜料理で産後のママをサポート
松尾さんは日頃、出張料理や自宅などでの料理教室を行っています。
「出張料理では、子育てや仕事が忙しく食事に手がまわらない方や、産後に体調が戻らない、母乳が出ないなどで食事に困っている方のお宅にうかがい、ご家庭にある食材で作り置きをしています。お世話になった助産師さんからの声かけで産褥(じょく)シッターを始めたのがきっかけで、10年ほど続けています」。
作り置きするのは野菜料理が中心です。
「主菜は、肉や魚を買ってきて焼くだけでもおいしいですから、私は野菜の副菜を作るようにしています。野菜料理って下ごしらえに少し手間がかかりますし、市販のお総菜は素材の味が感じられなかったり、調味料の味が強すぎたりしがち。とても喜んでいただいていて、中にはお仕事に復帰後も、継続してお手伝いにうかがっている方もいらっしゃるんですよ」。
料理は専門的に習ったことがないと言いますが、シンプルな味付けで野菜のうま味を引き出すレシピの数々は、アスレシピでも好評です。
スポーツ×栄養の考えに衝撃
スポーツ栄養との出会いは、長男が中学生になった時でした。
「長男がサッカーのクラブチームに入り、アスリートの食事に関する勉強会に参加しました。それまでも、子育てする上で食事のことは大切に考えてきたつもりでしたが、スポーツに関しては特に何かすることもなく、試合前日や当日に揚げ物や生ものを控えたり、夏場に水分や塩分補給を意識するくらい。ところが勉強会では、『試合の日はこういう食事』とか『エネルギー源の糖質は』などと初めて聞くことばかりで衝撃を受けました。『何、この世界。もっと知りたい!』と思いました」。
日々の生活でも、「食べたもので体が変わる」ということは感じていました。そこにスポーツ栄養の知識を取り入れたら、また何かが変わるんじゃないか。そう考え、勉強をスタートしたそうです。関連書籍やアスレシピの記事も全て読み、セミナーにも参加。一から筋道立てて学ぶため、資格も取得しました。
子育てで大切にしてきた3つのこと
松尾さんはお子さんが生まれた時、次のことを大切にしていこうと決めたと言います。それは、
・食事
・早寝早起き
・一生懸命遊ぶ
の3つです。
「この子は、将来どんなことを好きになるだろう。勉強かな、スポーツかな? 何かはわからないけれど、好きなことに一生懸命取り組める人になって欲しいねと夫とも話しました。そのためには元気な体が大事。元気な体作りには何が必要かと考えた時、この3つかなと思ったんです」。
スポーツ栄養の勉強は、これまでしてきたことが間違っていなかったことを確認する道のりでもありました。
「スポーツ栄養を学んでみると、これまでやってきたことと重なる部分が多くあり、やってきてよかった、と心から思いました。今、子どもたちが大きく成長してくれていることにもつながっているように思います」。
本人のやりたいことを全力で応援
長男は中学時代を、県外のサッカーの寮で過ごしました。
「寮では近くの学校に通い、放課後はすぐに帰寮し練習。練習が終われば、すぐに食事がとれるという環境でした。移動距離がないため、夜も10時には就寝できます。息子はゴールキーパーで、1mmでも身長を伸ばしたいという思いが親子ともにあり、本人の強い希望もあって入寮を決めました。少しさみしさもありましたが、本人はサッカーが思い切りできる環境に満足していたようです」。
現在中学生となった次男は、練習のある日は帰宅が午後10時を過ぎます。食事や睡眠、勉強時間の確保に難しさを感じています。
「やりたいことを一生懸命やれる子に、と思って子育てしてきたので、頭ごなしに『勉強しなさい!』とは言わないように気をつけています。今やりたいことがサッカーなら、『好きなサッカーを続けるために、行きたい学校はある? あるなら勉強もしないとね』と結びつけて伝えるようにしています」。
食事に関しても、長男と次男ではとらえ方が違います。
「長男は、早くから『食事もトレーニング』という意識が根付いていました。一方の次男は、そこまでではありません。次男が小学生の頃に、思い出深い出来事がありました。チームメートが試合の日、市販のお弁当を頼んでいたことをうらやましがり、『なんで俺だけいつもお母さんのおにぎりなんだ! 俺も唐揚げ弁当が食べたい!』と言ってきたんです。長男が『俺だったら、気分が悪くなりそうだから、試合の日に揚げ物は食べたくないな』と声をかけましたが、本人は納得できない様子。それでは、と次の試合に唐揚げ弁当を頼んであげたところ、帰宅早々『今度からまたお母さんのおにぎりにして』と。どうやら、試合中に気分が悪くなってしまったようです。何事も、実際に経験させることが大切なんだなと学びました」。
長男は今年高校2年生。身長の伸びも緩やかになり、高校から筋トレも始まりました。
「最近では体脂肪を気にするようになり、自分でもトレーナーに質問するなどして勉強しているようです。私も、今までは『食べて、食べて』ばかりでしたが、これからは体脂肪の管理についても勉強していこうと思っています」。
松尾家では、プロテインやサプリメントは使っていません。
「サッカー協会やチームの栄養指導でも、まずは食事から栄養をとるようにと言われています。『プロテインやサプリメントの安易な使用は、ドーピング問題につながる可能性もあります。うちの子はドーピングが問題になるような、高いレベルの選手ではないからとおっしゃる保護者もいますが、子どもはいつ伸びて、代表選手に選ばれるかわからない。そんなチャンスに、今まで食べていたもので諦めなければならないということがないようにしてください』と。そのようなことがあっては、悔やんでも悔やみきれません。また、大人になった時、栄養はサプリでとればいいと考えるようになって欲しくないという思いもあり、我が家では引き続き、食事でしっかり栄養をとらせていきたいと考えています」。
チームメートがプロテインを飲んでいると言ってきた時には、こんなアイデアで応戦しました。
「テーブルにきな粉をバーン! と出して、『これが天然のプロテインよ!』と牛乳に溶かして飲ませました。ほら、同じでしょう? って」。
成長期の前にスポーツ栄養の知識を
料理教室やお話会では、お子さんが小学生など、成長期より手前の世代のお母さんたちにもスポーツ栄養の知識を広めていきたいと話します。
「お子さんが年頃になってから、身長のことを気にしだす方が多いと思いますが、身長を伸ばすのには実は成長期の前が大事。それまでにどれだけ食事がしっかりとれているか、質の良い睡眠がとれているかがカギになります。私がスポーツ栄養を知った時に『もっと早く知っておきたかった』と思ったように、できるだけお子さんが小さいうちから、スポーツのための栄養学や、成長期につながる入り口の食事のことを伝えていきたいと思っています」。
コロナ禍でお休みしていた教室や集まりも、昨年の後半から少しずつ再開しています。教室やアスレシピへの投稿で、今子育てを頑張っているお母さんたちに伝えたいことはあるでしょうか。
「毎日、完璧じゃなくていいとお伝えしたいですね。こんな風に活動している私ですが、実は朝が弱く、子どもが小学生の頃は『行ってきます』の声で目覚めたことが何度も(笑)。スポーツ栄養というと、完璧にしないといけないと思われがちですが、自分のできる範囲で取り組むことが大切です。無理して頑張りすぎると、続きませんよね。ちなみに私は、前夜のうちに朝食やお弁当の下ごしらえをしておくことでカバーしています。旬を意識したり、野菜は皮や芯まで丸ごと使って栄養素を少しでも多くとるようにするとか、少しの工夫を続けることで、体は変わります。まずは小さな一歩から、踏み出してもらえたら嬉しいですね」。
松尾さんのレシピも掲載「アスリートレシピ」
アスレシピでは、スポーツに励むお子さんや家族を食で支える特派員・サポーター考案のレシピをまとめた「成長期の子どものためのアスリートレシピ」を発行しています。
サイトで紹介してきたたくさんのレシピから、今回は主食・お弁当・補食の100品を厳選。これからの季節にぜひ真似したい松尾さんのレシピ「ひんやりとろろ麺弁当」や「冷やしキュウリ」も掲載されています。各家庭でスポーツを頑張る子どもたちに作られてきた料理の数々を、皆さまの毎日にもぜひお役立てください。プリントオンデマンド(POD)と電子書籍があります。