茨城県の著名人、お笑いコンビのフルーツポンチ村上健志(37)おすすめの「あんこう鍋」。水戸市内で元祖あんこう鍋をうたう「山翠」のおかみ高野貴美子さんに聞きました。

約50年前から提供

 あんこうは深海魚で、砂泥上の海底に生息する。見た目はグロテスクだが、その身は捨てるところがなくヤナギ(身)、皮、水袋(胃袋)肝、ヌノ(卵巣)エラ、トモ(ひれ)は「あんこうの七つ道具」と呼ばれる。あんこう鍋はもともと漁師料理だ。水揚げされたあんこうを解体し、7つ道具と野菜をあんこうの水分だけで煮る「どぶ汁」が発祥といわれる。高野さんは「うちが元祖として出させていただいているのは、全国にあんこう鍋を広めた店としてやらせていただいております」と説明する。

元祖あんこう鍋をうたう「山翠」のあんこう鍋
元祖あんこう鍋をうたう「山翠」のあんこう鍋

身はプリプリ、皮はプルプルのあんこう鍋はヘルシーな鍋だ!
身はプリプリ、皮はプルプルのあんこう鍋はヘルシーな鍋だ!

板長の磯崎秀弘さん(左)とおかみの高野貴美子さん
板長の磯崎秀弘さん(左)とおかみの高野貴美子さん

 あんこう鍋の歴史は古い。「江戸時代の文献には将軍家に献上したというのがあって、それが常磐沖のあんこうといわれています。上質でおいしいということで献上していたようです」。同店では先代故高野詮(あきら)さんが「そんな歴史があるのなら何かできないか」と試行錯誤を繰り返し、約50年前に提供し始めたという。「最初は定着せずに苦労しました。30年くらい前からぽつりぽつりとメディアに取り上げられるようになって、25年前くらいから浸透してきました」。

みそでコクと風味アップ

 同店のあんこう鍋はしょうゆベースだが、実はどぶ汁を意識した秘密がある。それが「焼きみそ」だ。「当店では『秘伝の焼きみそ』と呼んでいますが、あん肝とおみそを合わせて炭火で何時間も焼き返しています。この小さなものをしょうゆベースに入れることで、肝の味とみその味とコクと風味が出るようになっています。少しでもオリジナルに近づけながらも、食べやすくというかたちで商品化してきました」。

 秘伝の焼きみそをスープに半分溶かし、まずは野菜を敷き詰め、その上に7つ道具を乗せる。ひと煮立ちしたものを実際に食べてみると、身は淡泊で美味 !  皮のプルプル感も何とも言えない。コラーゲンたっぷりで、特に女性の美容にも良さそうだ。

 なにより野菜もたっぷり取れるのでヘルシー。これならダイエット中の方や体形を気にしている女性がおなかいっぱい食べても罪悪感なし! 秘伝の焼きみそのせいか、スープにもコクがある。野菜の甘さと相まってか、しょうゆベースなのに程よい甘さとコクを感じられる。シメには雑炊セットとうどんセットが用意されているが、個人的には雑炊セットをおすすめしたい。

 「これからの時期はあんこうの本当のシーズンなので、ぜひおいしいあんこう鍋を召し上がりにきてください」。都内近郊では提供している店が少ないだけに、近隣県から足を運ぶ価値はあり。旬は3月いっぱいだ。

こだわりの「つるし切り」

仕入れたあんこうは店舗でつるし切りし、徹底的に下処理を行う
仕入れたあんこうは店舗でつるし切りし、徹底的に下処理を行う

 あんこうといえば、そのさばき方が特徴的だ。体の半分が水分ともいわれ、ぶよぶよしているので「つるし切り」という方法が用いられる。同店の板長磯崎秀弘さんは「最初は難しいかもしれませんが、うちにいれば1カ月で習得できると思います」。それだけ、つるし切りをする頻度が高いということだ。

 磯崎さんのこだわりは、「下処理で絶対に手を抜かないこと」だ。「深海魚なのでどうしても臭みがあります。きれいにぬめりをとって、血を抜いて、あとは水道で一日中流しっぱなし。それで初めてお客さんに提供できます」と手間をかける。「うちは元祖という名前もあって、そういう部分にこだわってやっています。絶対ここだけは手を抜かないようにしています」と職人魂を語った。仕入れも自ら市場に出向く。ポイントは「おなかのあたりに赤みがかっているのとふっくらしているもの」。旬な時期は3月いっぱいだが、その理由を「4月以降は産卵に入ってしまうので、身が柔らかくなってしまいます。浅瀬で産卵するので、どうしても身が緩んでしまうんです」と話してくれた。

インスタ映えする「柳焼き」

あんこうの柳焼きはインスタ映え間違いなし
あんこうの柳焼きはインスタ映え間違いなし

 同店にはあんこう鍋以外にもおすすめがある。山翠オリジナル「あんこう柳焼き」だ。高野さんは「ほお肉は繊維質なので、ここを味わっていただくものです。唇も食べられます」と話した。豪快に口を開けた姿はインスタ映え間違いなし。もちろん、「あん肝」もおすすめだ。【川田和博】

茨城郷土料理 元祖あんこう鍋 山翠

あんこう料理のほか「納豆料理」「奥久慈しゃも料理」「ブナぶた料理」など茨城県の郷土料理を提供。元祖あんこう鍋1人前3400円(税別)。
住所:茨城県水戸市泉町2丁目2-40
交通:JR常磐線水戸駅から徒歩約15分。常磐道水戸ICから約20分。
電話:029-221-3617
営業時間:午前11時~午後2時30分、午後5~9時
定休日:火曜日
HP:http://www.sansui-mito.com/index.html

(2018年2月10日付日刊スポーツ紙面掲載)