スポーツ選手にとって、体重のコントロールは悩ましい課題の1つといえます。自己流のダイエットをして体調を崩してしまう例が少なくありません。
大切なのは、正しい方法でダイエットをすることと、減量を適度な範囲で抑えることです。なぜなら、成長期の過度なダイエットは大きなリスクを生み出すからです。
最大のリスクは骨が弱くなることです。10代後半は、一生分の骨量を貯える時期。そこでエネルギー不足が続くと、骨の成長が妨げられる恐れがあります。特に女子の場合は月経が不順になり、骨の形成に必要なホルモンのエストロゲンの分泌が滞ります。エスロゲン不足では、カルシウムやビタミンDなど骨の材料を補っても骨量は増えません。
そんな状態でハードな練習を続けると、疲労骨折などを起こす危険さえあります。ちなみにエストロゲンは骨形成だけでなく、筋力、記憶力、免疫力を高め、美肌効果まで実証されています。アスリートとしてだけでなく、学力アップ、女子力アップにも貢献してくれる頼もしいホルモンなのです。
そんなエストロゲンを味方にする秘訣は、ダイエットを月経不順が起きる前にやめること。目安は、体脂肪率15%です。体脂肪率と月経異常との関係を調べた研究(目崎登「女性スポーツの医学」1997)では、体脂肪が15%を下回ると月経不順が急増し、体脂肪10%以下では100%の確率で無月経になると報告されています。
また、米国マサチューセッツ大学の研究では、10代に低体重(BMI18.5未満)だった女性は、早期閉経(45歳未満の閉経)が生じるリスクが30%も高くなると報告しています。エストロゲンは骨量の維持に加え、高血圧や脂質異常症の予防にも効果があります。従って、早い時期に骨粗しょう症や動脈硬化になってしまうことも考えられます。
女子の選手生命は近年、長くなる一方。海外では、母親になっても活躍するアスリートは珍しくありません。遠い将来にも少しだけ目を向けてみれば、目先の体重よりも大切なことが見えてくるはずです。【中島さなえ】
BMI(Body Mass Index)は国際的に通用する体格指数。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められ、18.5未満は低体重、18.5以上25未満は普通体重、25以上は肥満と判定される。