富山大学地域連携推進機構地域医療保健支援部門(部門長:関根道和教授)は、高岡市内の5つの小学校に通う1年生から6年生までの全児童2109名を対象として、平成28年3月に社会経済環境や親子の生活習慣などに関するアンケート調査を実施し、「虫歯を指摘されたが通院していない子供(虫歯が放置されている子供)」の特徴に関する新たな知見が得られたとして、次のように報告した。

アンケート調査は、平成26年度に富山県教育委員会と連携して実施された文部科学省スーパー食育スクール事業の追加調査で、回収数は1987名(回収率94.2%)、有効回答数は1655名。大学院生(当時、現・明海大学)の浅香有希子歯科医師、山田正明助教らが分析した。

虫歯が放置されている子供は、「生活のゆとりがない」家庭に多い。「生活のゆとりがある」と答えた家庭で虫歯が放置されている子供の割合は1.6%だったのに対して、「ゆとりがない」では 4.8%と高かった
虫歯が放置されている子供は、「生活のゆとりがない」家庭に多い。「生活のゆとりがある」と答えた家庭で虫歯が放置されている子供の割合は1.6%だったのに対して、「ゆとりがない」では 4.8%と高かった

調査の結果、虫歯が放置されている子供は対象者全体の3.2%で、虫歯が放置されている子供の特徴として「生活のゆとりがない」「父親の平日の家でのインターネット・ゲーム利用時間が2時間以上」「習い事をしていない」「高学年」といった特徴があった。

虫歯が放置されている子供は、父のインターネット・ゲーム時間が長い家庭に多い。「父親のインターネット・ゲーム時間が2時間未満(平日)」の子供の虫歯が放置されている割合は2.8%だったのに対して、「2時間以上」の子供では 5.9%だった
虫歯が放置されている子供は、父のインターネット・ゲーム時間が長い家庭に多い。「父親のインターネット・ゲーム時間が2時間未満(平日)」の子供の虫歯が放置されている割合は2.8%だったのに対して、「2時間以上」の子供では 5.9%だった

父母の生活習慣が良くない家庭で子供の虫歯が放置される傾向があったが、特に統計学的に強い関連性は「父親の平日の家でのインターネット・ゲーム利用時間が2時間以上」の場合に認められた。父親のインターネット・ゲーム利用時間が長いことは、子供への無関心との関連が報告されており、家庭での会話が減って子供の健康への気づきが遅くなると考えられている。

虫歯が放置されている子供は、習い事がない傾向。子供の「習い事あり」の家庭における虫歯が放置されている子供の割合が2.5%だったのに対し「習い事なし」の家庭の子供では6.2%と高くなっていた
虫歯が放置されている子供は、習い事がない傾向。子供の「習い事あり」の家庭における虫歯が放置されている子供の割合が2.5%だったのに対し「習い事なし」の家庭の子供では6.2%と高くなっていた

「習い事をしていない」子供の虫歯も放置される傾向があったが、習い事は子供の生活習慣である一方、子供の教育機会に関する指標であり、家庭の経済力の影響を受けることが知られている。そうしたことから「生活のゆとり」とともに関連性が出たものと考えられている。

虫歯が放置されている子供は高学年に多い。低学年(1~3年生)の子供の虫歯が放置されている割合は 2.1%だったのに対して、高学年(4~6年生)の子供は4.4%だった
虫歯が放置されている子供は高学年に多い。低学年(1~3年生)の子供の虫歯が放置されている割合は 2.1%だったのに対して、高学年(4~6年生)の子供は4.4%だった

今回の研究から虫歯の放置の背景要因として、子供自身よりも、家庭が強く関連していることが分かったという。子供の虫歯の放置と最も強い関連を示したのは、「生活のゆとりがない」こと。海外では医療保険制度の違いもあって、経済的に余裕のない家庭にデンタルネグレクトが多いことは報告されているが、日本では経済的理由だけでは説明がつかず、「時間的な余裕がない」や「子供の健康への関心が低い」などの経済的な理由以外の要因もあると考えられる。

近年、虫歯のある子供の割合は減少傾向にあるが、虫歯がない子供と極端に虫歯が多い子供に2極化していることや、虫歯などの口腔内の異常が放置される「デンタルネグレクト」が問題となっている。医療費助成制度等により子供の医療費は実質的に無料の場合が多いにもかかわらず、子どもに虫歯があっても医療機関を受診しない要因があることも明らかとなった。

子どもの虫歯は痛みだけではなく、睡眠不足や学力低下につながることが知られている。栄養不良を介して成長や発達にも影響がある。また精神的な影響として、人前で笑えなくなるといった自己肯定感の低下にも関連すると報告されている。親への情報提供を含めた啓発や、未受診者のフォローアップなどの仕組みづくりが必要と考えられる。

調査結果の詳細は、11月25日に国際誌 Environmental Health and Preventive Medicine に公開。子供の虫歯のリスク要因についての研究は多数あるが、子供の虫歯が放置される要因に注目した研究は少なく、貴重なデータと考えているとしている。