<ラグビー流 Education(5)>
今回はラグビー元日本代表の今泉清氏(52)による「自信のつくり方」。現役時代に名キッカーとして活躍した同氏のエピソードを交え、小学校での講演でも伝えている話です。
頭の中で前向きな気持ちをつくる
今泉氏は早大時代には数々の名勝負を演じてきた。中でもプレースキッカーとして活躍し、球をセットした後、5歩後ろに下がって立ち位置を調整する際、観衆から「イーチ、ニー、サーン、シー、ゴー!」と大合唱、場内が一体化するのが“お約束”だった。 この「チャント」のきっかけは、公式戦2試合目の出場となった1年時の早慶戦。最初のペナルティーキックの時に慶大の応援席から聞こえてきたという。
今泉 いわゆるヤジ。本当はもっと速いテンポで下がりたいのに、僕は声に惑わされて集中できず、キックを外してしまった。そして、次のキック時にも同じように…。結局3回続けてキックを失敗。だけど、4回目の時、考え方を変えてみたんです。「この掛け声はヤジじゃなくて、僕を応援してくれる声なんだ」と自分に思い込ませた。掛け声にわざと合わせて、下がってみた。すると、それまで遠く見えていたゴールが近くに思えてきた。重圧が消え、自信が生まれ、キックは決まりました。
発想の転換で、精神的状態の逆転に成功した。
今泉 ヤジを飛ばされても、グラウンド上の僕はそれを止められない。他人や現実を変えられないなら、自分の考え方を変える。自分は変えられます。
スポーツにおいて、精神状態と体の動きが密に関連するのは明らかだ。
今泉 脳は頭に浮かんだことを優先して体に伝達します。「失敗するかも」と思うと、脳がその動きを手足に伝えてしまう。だから頭の中から前向きな気持ちをつくる。自信とは「よい結果を出すことで生まれるもの」というより、「よい結果を出すための準備」だと思います。
早慶戦での今泉氏はその後もキックを決め続け、早大を応援する観客も「イーチ、ニー…」に加わった。そもそも5歩下がって始めるルーティンは、当時のニュージーランド代表フォックスのまねだったが、日本ラグビー界では「今泉流」として定着した。
今泉 英語の「LIVE」には「生きる」など前向きな意味があり、つづりが逆の「EVIL」は「邪悪」などの意味。英語圏の方は「どちらから読むかは自分次第」と例えます。掛け声をヤジだと思っていた時の僕は「EVIL」の側にいたんです。
◆今泉清(いまいずみ・きよし)1967年(昭42)生まれ、大分市出身。6歳でラグビーを始め、大分舞鶴高から早大に進み、主にFBとしてプレースキックなどで大学選手権2回優勝、87年度日本選手権優勝に貢献。ニュージーランド留学後、サントリー入り。95年W杯日本代表、キャップ8。01年に引退した後は早大などの指導、日刊スポーツなどでの評論・解説、講演など幅広く活躍。
(2019年11月3日、ニッカンスポーツ・コム掲載)