<ラグビー流 Education(11)>
昨年のラグビーW杯(ワールドカップ)は、日本中に大きな感動を与えました。選手の迫力あるプレーはもちろん、その言動や人間性に心揺さぶられた方も多いでしょう。ジュニア世代に伝えたい、教育的にも有意義なエピソードもたくさんありました。名門・桐蔭学園(神奈川)を率いる藤原秀之監督(51)が振り返ります。
品位、情熱、結束、規律、尊重
日本代表がベスト8入りを果たしたこともあり、今回のW杯は藤原氏も「予想以上」という盛り上がりを見せ、スポーツの枠を超えた社会現象となった。
藤原 もちろん、日本代表がいい試合をしたことが大きい。同時に「品位」とか「規律」とか、日本人が本来大事にしてきたけど、最近失われつつあるものを、呼び起こしてくれた。ラグビーの素直でまっすぐなところを感じて、「ラグビーってこういうものなのか」と、認知し、共感した人が多かったんじゃないかと思いました。
ラグビーの基本原則である「ラグビー憲章」のキーワードは「品位」「情熱」「結束」「規律」「尊重」の5個。例えば「品位」は誠実さとフェアプレー、「結束」には友情、(文化などの)相違を超えた忠誠心などの意味が含まれる。
藤原 直前までケンカみたいに体をぶつけ合っていた相手と、試合が終われば握手してたたえ合う。出血しても、テーピングをぐるぐる巻いて(止血して)果敢に戦い続ける情熱。オールブラックスが最初の試合で(日本式の)おじぎをしたら、次々と他のチームもやるようになった。試合が中止になったカナダ代表は(台風被害に対する)ボランティアをしてくれた。
選手だけではない。
藤原 異なるチームのファンが入り交じって観戦できるスポーツはそうそうない。それでトラブルも起きない。サポーター同士でジャージーを交換して、これもリスペクト。美談ではなく、彼らにとっては当たり前の行為なんです。
ラグビー界では珍しくないことも、初めて見る者には新鮮に映り、ジュニア世代に伝えたい、心温まるエピソードとなった。それは日本の社会の中で、何かが忘れられつつあることへの警鐘なのかもしれない。
また、日本代表の「ONE TEAM」という言葉は“新語・流行語大賞”に。
藤原 「ONE TEAM」という言葉はシンプルだけど、そうなるのは簡単ではないはずです。どれだけ時間を費やし、何を共有してそうなれたのか、その過程を掘り下げないと。通算300日といわれる、それだけの時間をかけてやっとできた。いろんな衝突も、言葉の壁もあったでしょう。逆に言えば、そういうのがないと「ONE TEAM」にはならない。単に仲良し、居心地のいいグループでは、強い組織とはいえないでしょう。
いい意味の衝突があり、化学反応が生まれることも必要。「ONE TEAM」のつくり方は、組織づくりへのヒントがたくさん詰まっていそうだ。
◆藤原秀之(ふじわら・ひでゆき)1968年(昭43)東京生まれ。大東大第一高でラグビーを始め、85年度全国選手権でWTBとして優勝。日体大に進む。卒業後の90年に桐蔭学園高で保健体育の教員、ラグビー部のコーチとなり、02年から監督。同部は本年度で5大会連続18度目の全国選手権出場に。決勝進出6回、10年度優勝時のメンバーに日本代表の松島幸太朗ら。今や「東の横綱」と呼ばれている。
(2019年12月8日、ニッカンスポーツ・コム掲載)