<ラグビー流 Education(14)>
昨年のラグビーW杯(ワールドカップ)は、「ONE TEAM」などの“流行語”をいくつも生む社会現象になりました。元日本代表の今泉清氏(52)は、選手だけでなく、迎えた日本側の力も大きかったと強調します。
互いにリスペクトし合う
今泉 今大会で特に素晴らしかったのは、世界中のラグビー選手に日本の「おもてなし」の文化が伝わったことだと思います。試合や合宿地で、その国のナショナル・アンセムを歌って迎えたり、子どもたちがハカを覚えて披露して歓迎したり…。すると、オールブラックスが試合後におじぎをしてくれた。
互いにリスペクトし合う心の交流。岩手・釜石では大漁旗を振って応援した。鹿児島では南アフリカ代表にすしを振る舞うだけでなく、選手にすしを握る体験を企画して大好評。一方、サモア代表は日本文化を尊重し、公共施設でタトゥーを隠していた。カナダ代表は釜石でボランティア活動に協力してくれた。
今泉 日本では接待などお客を迎える時、「あの方はこういうワインが好きだから」とか、相手に喜んでもらいたいと、準備をしますよね。逆に招かれた側なら手みやげとか…。そんな習慣が希薄な外国人にとっては、日本人の当たり前が「サプライズ」、一層うれしかったはずです。そしてリスペクトというのは感謝の気持ちがあってこそ、生まれると思います。
来てくれてありがとう。歓迎してくれてありがとう-。今泉氏がジュニア世代に最も伝えたいことの1つが感謝、「ありがたいという気持ちを持つこと」。
今泉 普段「当たり前」と思っていることが、実は当たり前じゃなく、いかに「ありがたいこと」か。例えばラグビーができる、毎日学校に行く、水道の水が飲める…。それが「当たり前じゃない」ところが海外にはたくさんあります。
水道水が飲料に適している国はごくわずかだ。
今泉 自分1人だけでは何もできず、「当たり前」があるのはいろんな人のおかげです。それを「ありがたい」と思う気持ちを持ってほしいですね。
感謝、リスペクト、おもてなしの心。この好循環が今回のW杯を熱く、温かいものにした。もちろん来年の東京オリンピック・パラリンピックでも-。
◆今泉清(いまいずみ・きよし)1967年(昭42)生まれ、大分市出身。6歳でラグビーを始め、大分舞鶴高から早大に進み、主にFBとしてプレースキックなどで大学選手権2回優勝、87年度日本選手権優勝に貢献。ニュージーランド留学後、サントリー入り。95年W杯日本代表、キャップ8。01年に引退した後は早大などの指導、日刊スポーツなどでの評論・解説、講演など幅広く活躍。
(2019年12月15日、ニッカンスポーツ・コム掲載)