努力が報われる日は来る-。長崎・国見高出身のJ2東京ヴェルディFW大久保嘉人(38)が、新型コロナウイルスの影響で全国高校総体(インターハイ)の舞台を絶たれた高校生へエールを送った。インターネット回線を通じて取材に応じ、今できる練習を継続することの大切さを説き、子供を持つ親目線から「先を見てやることが大事」と語った。

ビデオ会議システムで取材に応じた東京VのFW大久保
ビデオ会議システムで取材に応じた東京VのFW大久保

大久保は00年のインターハイで全国優勝し、プロの道を切りひらいた。その重みを知るだけに「プロのスカウトも見て、またそこで化ける選手も出てくる。進路も変わってくる。その場がなくなるのは難しくなるなあ…。かわいそう、本当に。だれにもぶつけるわけにもいかないしね…」。

長崎県予選からチームメートと「絶対にスカウトに目を付けてもらう」とアピールの場と位置づけ、ピッチに立った。全国舞台で10得点し得点王。その後に世代別代表にも選ばれ「自信がついて、自分も(インターハイで)伸びた1人。転機になった大会」。冬には全国選手権も制し、国体も合わせて3冠を達成した。

第79回全国高校サツカー決勝 国見対草津東 ドリブルする国見の大久保嘉人(2001年1月8日)
第79回全国高校サツカー決勝 国見対草津東 ドリブルする国見の大久保嘉人(2001年1月8日)

「自分だったら、絶対に自暴自棄にならず“次に向けて”という気持ちになっていた。選手権がある前提でやるしかない。プロを目指す選手たちはプロになるため、今できることをやるしかないと練習に励んでほしい。大学志望の選手は、どこかで見てくれていると思ってやるしかない」

4人の男児の父。中3の長男は街クラブでサッカーをしているが活動休止中。「まじでプロになりたいと思うなら、オレは今、チャンスだと思うぞ。みんなに追いつけるから」と言い聞かせている。中高生は技術、体力が急激に伸びる「可能性の塊」。全体練習がない今、走りや体幹、個人練習を磨けば、チーム内競争で「追いつき・追い越せ」は可能だと考えている。

大久保もリーグ再開時期の見通しが立たない状況でも、トレーニングを続けている。午前8時から、子供と2時間、サッカーをした後、さらに2時間の個人練習を続ける。坂が多い家の近所を、マスクをして4・2キロ走り、壁当てができる公園に出向き、ひたすらボールを蹴る。全体練習があるときも、居残りで続けているキック練習だ。体幹、足の筋トレも欠かさない。「個人練習で限界はあるし、正直きつい。でも、絶対に妥協は許さない。逆に精神的に、強くなったと思う」と前向きにとらえる。楽ができる環境でも、ストイックな姿勢を貫いている。

新ユニホームで登壇するJ2東京ヴェルディFW大久保
新ユニホームで登壇するJ2東京ヴェルディFW大久保

プロ20年目。高校サッカーの先輩として、父親としてメッセージを送った。

「親は子供にやることはやらせて“先を見なさい”と言うことが大事かな。子供たちは大会ができないのは悔しいだろうけど、この先のことを考えてやり続けましょう。この努力が報われる日が来ると思うから」

30歳を超えての3年連続得点王、J1歴代最多の185得点の輝かしい記録は「継続」の先に手にしたものである。【岩田千代巳】

(2020年4月30日、ニッカンスポーツ・コム掲載)