地味の自負がある。マリナーズ平野佳寿投手(36)が、独自の生き方と覚悟を語った。

昨年まで2年間在籍したダイヤモンドバックスでは中継ぎとして活躍。黙々とやるべき仕事に徹し、新天地のマ軍では守護神候補として期待される。来るメジャー開幕へ、現在はアリゾナ州で自主トレ中。日米通算1094投球回の鉄腕が、電話インタビューで思いを明かした。【取材・構成=斎藤庸裕】

マリナーズ平野佳寿
マリナーズ平野佳寿

自分の信じた道を真っすぐ歩んできた平野には、幼少期から今も変わらず、ずっと好きなものがある。

「今も漫画は大好きですね。30代後半にさしかかるのに、恥ずかしながら(笑い)。推しで言ったら、キングダムとワンピース。進撃の巨人も面白いですね」

ドラゴンボールやスラムダンク…。少年時代は白球を追いかけながら、週刊少年ジャンプにも熱中していた。現在は、家族と過ごしているアリゾナの自宅で、1人の時間に、好きな漫画を読む。シーズン中は、遠征先で映画やドラマを見るのも楽しみの1つだ。

「見始めたら一気に見たい。映画は家で子供とかいたら見られないので、遠征先で。基本的に、1人でっていうのが好きですね」

1人黙々と。野球人生も同じように進んできた。

「自分のこと、地味だなって(笑い)。そういうもんだと思ってます。高校(京都・鳥羽)の時は補欠で、目立った選手でもなかった。そんな選手でも、プロ野球、メジャーまで行くことができた」

日本ではオリックス一筋。守護神を担ったが、注目されるのは打たれた時がほとんどだった。侍ジャパンにも選出されたが、いわゆる“スター選手”と呼ばれる存在ではなかった。海を渡っても同じ。メジャーデビューはエンゼルス大谷と同年。二刀流フィーバーに隠れながら、腕を振った。

「派手な人ばっかりじゃない。地道にやっている方もたくさんいる。僕もその1人なんだと。今、野球をやっている子たちも、夢を諦めないとか、補欠だけど、どこで花咲くか分からないよ、っていうのを理解してもらえればいいかな」

その生き方を初の著書に記した。華やかでなくたっていい。「地味を笑うな」。タイトルにエールを込めた。

著書「地味を笑うな」の表紙カバー(本人提供)
著書「地味を笑うな」の表紙カバー(本人提供)

ニュアンスとしては地味というより、地道な生き方なのかもしれない。じっくり淡々と自己分析を積み重ね、メジャーで通用するまでに技を極めた。

「自分の体を知る。そこに時間をかけてきた。長所と短所を理解して、長所を伸ばしたり。大学でやっていたことを見直して、忘れないように。そこが地味な作業だったかなと。そういうことを怠らずにやり続けた結果なんだという自負を持って、今もやっている」

京産大時代は、体幹やバランスを整えるため、まずは姿勢、歩き方から変えた。ランニングでも1本の線の上を走れるように、常に意識付けを行ってきた。

「映像とかデータよりも、自分の体で感じ取る。(球の)回転数や軸とかは、全く見たことなかった。(データ解析システムの)トラックマンとかラプソードも使ったことない。ほぼ感覚で生きてきましたね」

感性を信じる。ブレはない。肩肘に違和感を覚えた時も、下半身の動きが原因と考え、股関節のケアを行う。己の体を熟知しているから、自分が目指す方向へ進める。メジャーに舞台を移しても、その姿勢は変わらない。それは球種に対するスタンスに表れる。新球種を試し、選択肢を増やす道とは逆の道へ。直球とフォーク。2つに絞って勝負を続けている。

「正確には絞らざるを得なかったんですけどね。毎年、球種を増やそうと思っていますよ。でも、中継ぎ、抑えを任されて、遊び球がいらないと分かった」

これまでスライダーやナックルカーブも持ち球にあった。メジャー2年目のキャンプ中には、再びカーブを試した。だが、しっくりこない感覚が、新球種に“不合格”を告げる。

「カウント球にはしたくなかったし、打たれたら後悔する。だから直球とフォークの精度を上げる、というところに行き着く。こっち(米国)でも終盤に出るような投手の球種は2種類だけ。3種類ってあんまりいない。そういう感じに球界がなっているのかなと」

アリゾナ州で自主トレを続けるマリナーズ平野(本人提供)
アリゾナ州で自主トレを続けるマリナーズ平野(本人提供)

自分が信じる球種と“心中”する。メジャー1年目の18年にダ軍の球団記録を更新する26試合連続無失点をマーク。信じてきたことが、間違いではなかったことを証明した。そして3年目、新天地マリナーズでは守護神候補として期待される。現在は自宅のあるアリゾナ州で同僚となった菊池とキャッチボールを行うなど、自主トレを継続する。

「キャンプも順調だったし、シーズン最初からやりたいのはありましたけどね。楽観的ではないけど、特にめいることもなく。仕方ないかなと。しっかり体力を維持していければいい」

未曽有の事態でシーズンは試合数短縮が濃厚。平野のように、単年契約の選手には厳しい現実もある。

「それが僕の野球人生というか、こうなったのも受け入れて、頑張っていくしかない。3年目ですけど、1年ずつ勝負。(最終的に)日本に帰れるという思いがあるのは、虫のいい話。今は、アメリカで(現役を)終えていいんだというくらいの気持ちです」

自分を信じ、極めた2球種がある。メジャーで守護神として活躍する日が訪れるまで-。地味に、地道に、マウンドに立つ。

◆メジャーの守護神たちの球種 ヤンキースのチャプマンは基本的に最速169キロの直球とスライダーの2種。元々はチェンジアップもあったが、今はほとんど使わない。昨年37セーブのブルワーズの左腕ヘイダーも1年目にチェンジアップを使っていたが、18年以降は直球とスライダーのみ。昨年41セーブでタイトルを獲得したパドレスの右腕イェイツは、元々チェンジアップ、カーブ、スライダーと豊富だった持ち球を、一昨年から直球とスプリットの2球種に絞っている。

○…育児と家事に励むイクメンでもある。7歳の長女と5歳の長男は遊び盛り。最近では自宅のプールで一緒に遊ぶのが日課だ。お風呂と歯磨き、就寝まで子供の面倒を見ながら、ゴミ出しや洗濯物の家事も手伝う。例年なら、試合を行っている時期で「野球ができないことで悪いなと思うこともあります」と複雑な気持ちだが「家族といるっていうのはいいもんやなって。楽しんでます」と家族のありがたみを実感している。

(2020年5月10日、ニッカンスポーツ・コム掲載)