<医療ライター・しんどうとも「メンタル回復法」(9)>

いまの自分が抱えている感情をあえて見つめる。受け止め、そして気持ちを切り替える-。「心と身体の正しい休め方」(ディスカバー・トゥエンティワン)の著者で禅僧、精神科・診療内科医の川野泰周さんはこう話す。

「ただ、現実を受け入れられるようになる。仏教では、あることにしがみつき続けることはよくないと考えます。物事にしがみつくことはすなわち“執着”ですが、これを手放す方法としてマインドフルネスが注目されているのです」

「手放す」は、仏教でいうところの「執着を解き放つこと」。本来仏教では「着」を「著」と書き、「しゅうじゃく」と濁って読む。

「執着とは、“自分がこうなりたい、これを手に入れたい”という我欲の根源です。しかし、執着は欲だけではない。怒り、悲しみ、あるいは愛情というものもそうかもしれません。あらゆる感情に対して、しがみつくことも執着です。(嫌なことなどを)“忘れたい”というのも執着。この執着を手放すことが仏教の大きなテーマです」

心理学的にある思考を抑制すると反対にそれが強くなる。「“思考抑制の逆説的効果”といって、人間は考えたくないものほど考えてしまうし、考えていいといわれると考えなくなる。あまのじゃくな心をもった生き物なんです。このことから自分の心をコントロールする秘訣(ひけつ)は、自分の心をコントロールしようとしないこと」

心を良い状態にしようと思えば思うほど、かえってネガティブな感情が強くなる。

(2020年10月25日、ニッカンスポーツ・コム掲載)