<医療ライター・しんどうとも「メンタル回復法」(17)>

コロナ禍が続く今こそ、心の回復に注目しなければいけない。禅僧、精神科・心療内科医の川野泰周さんが説く。

「“コロナにかかるかもしれない”という不安は、生老病死の苦しみとして誰にでもあるものです。誰もが病気にはなりたくないしなったら怖い。そのことからは逃れることができません。だからこそ今、目に見えないものを信じる力が試されているのではないでしょうか。目に見えないものとはつまり絆です」

人、社会、あるいは自然の一部であるという絆。これらを仏教では「縁起の法則」と呼んでいる。

「自分の存在は無数のいろいろな人や物との関係において成り立っているのであり、この世界に自分しかいなければ、自分とは何かと定義できません。たとえば息子、娘との関係において自分はお父さんだし、妻との関係において自分は夫だということです。自分のアイデンティティーも人や物との関係で規定されるのです」

ソーシャルディスタンスで生まれた距離が“心の距離”になるのでは。

「サイコロジカルディスタンス、つまり心理的な距離が生まれることを自分たちの力で止められるか、それが試されているのではないでしょうか。人間はみんな、同じ心と体を持った存在であるという認識が持てるかです。互いにほんの小さな相違点を否定し合う争いの関係ではなく、手をとって握手できない環境だからこそ、心は手を携えていこうと思えるかどうかですね」

(2020年11月12日、ニッカンスポーツ・コム掲載)