コロナ禍の今年、ケガをするアスリートが多かったが、冬に大きな大会を迎えるラグビーでは、チーム練習を再開した8月以降、肩関節を脱臼する選手が増えた。一度受傷するとクセになりやすい脱臼や亜脱臼。なぜ受傷してしまうのか、その理由と予防について、順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学の川崎隆之准教授に話を聞いた。

順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学の川崎隆之准教授
順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学の川崎隆之准教授

練習不十分で今季はケガ発症の割合が高い

川崎准教授は「統計はとっていない」と前置きした上で、「練習が本格的に始まった8月ぐらいから、外来に来る選手が増えた」と話す。

・自主練習はしていたとしても、急に練習の強度が高くなり、体に負担がかかる。
・例年に比べてコンタクト練習の量が激減し、十分にトレーニングできていない中で試合に突入することで、体に負荷がかかる。

これらのことから、ケガ発症の割合が高くなっていることは間違いないだろうと見解を示した。

中でも脱臼は、肩周りなどの上半身の筋力、体の使い方によっても発症の度合いが高まる。スキルがないまま、無理な体勢でタックルにいくことで受傷の確率が高まるのだ。

トップ校高校生の約5人に1人が脱臼経験

高校生ラガーマンを対象としたあるデータがある。全国大会に出場するような強豪校の高校生約1000人を対象に、脱臼経験の有無を聞いたところ、脱臼した経験のある選手は12~13%もいたという。また、川崎准教授が関東近郊の強豪校の高校生約500人に同様のアンケートをとったところ、その数は15%に上った。医療機関を受診せずに様子を見たり、自覚症状のない亜脱臼も含めると、おそらく20%近く、5人に1人が脱臼を経験していることになる。

一度、脱臼すると繰り返すことが多く、川崎准教授の調査では半数以上が同一シーズンで再発。骨欠損が大きくなるだけでなく、怖さや痛みでプレー自体に支障が出てしまう。完治させるには手術が必要で、半年以上の離脱を伴うが、その先の競技人生を考えるなら早期の適切な治療が必要となってくる。

脱臼を防ぐために何を知り、何をするか

では、どうしたら脱臼を予防できるのか。

川崎准教授は「タックルスキルの向上」と「安全なタックルの仕方」を挙げた。そのためには「まず、選手にケガのメカニズムを知ってもらわなければならない」として、啓蒙のために昨年、ポスターを作って関係各所へ配布した。中でも「逆ヘッドタックルを減らすこと。プラス正しい姿勢で入ること。これだけでも脱臼が減るはず」と強調した。

川崎准教授が作成したポスター
川崎准教授が作成したポスター

タックルにおける脱臼は、ボールキャリアーに振り切られて肩が後方に伸ばされるもの(アームタックル)と、相手の進行方向をさえぎるように頭を入れてしまうタックル(逆ヘッドタックル)がある。本来のタックルは、相手の進行方向と逆に頭を入れる(順ヘッド)ものだが、進行方向に頭を入れてしまうと、肩や頭部への衝撃が強く、脱臼だけでなく、脳震とうやバーナー症候群という首の障害にもつながる。「逆ヘッド」は、自分の体にとって危険なタックルである。

高校生に多い逆ヘッド、スキル向上が必要

高校、大学、社会人とカテゴリー別に見ると、逆ヘッドタックルをするのは、高校生が圧倒的に多い。もちろん、大半は意図的ではなくアクシデントによるものだが、「判断するタイミングが遅いとか、1対1の場面で頭が下がって背中が丸まっているというスキル不足で起こることが多い」と川崎准教授は指摘。一方で、「大学以上でもラグビーを続ける選手はスキルが上がり、スマザータックルを多用するなど、アクシデントを避けるすべを知っているんでしょう」とも言い換えた。

ケガの危険性を訴えたことで、2018年には中学生の試合で逆ヘッドタックルが反則になると規則も変更された。低い姿勢でのタックルと、頭を下げてのタックルは違うものだ。「そんな不用意なシチュエーションからのタックルで、ケガをするケースを少しでも減らしたい」。川崎准教授は、安全なタックルで競技力を向上させて欲しいと力を込めた。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】