卓球の福原愛さんら多くのトップアスリートを指導したフィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一氏(49)が昨秋、医師ら3人で上梓した健康体操本『100トレ』(徳間書店)が注目されている。「歩く」「食べる」「出す」という3つの力を養うための体操で、100歳まで健康寿命を伸ばすことを目的に開発された。その誕生秘話と、体操のポイントについて聞いた。【取材・構成 首藤正徳】
「歩く」「食べる」「出す」
厚生労働省の調査では日本の100歳以上の人口は7万人を超えているが、自立して生活できる健康寿命は男性72歳、女性は74歳。100歳まで介護と無縁の人はほんの一握りだ。しかし、中野さんは「『100トレ』を実践すれば、100歳まで寝たきり知らずで生活できるようになります」と断言する。自信の言葉には裏付けがあった。
中野 103歳になる私の祖母です。98歳で肺疾患を患い、寝たきりになりましたが「息子夫婦に迷惑をかけたくない」と、私のアドバイスを元にトレーニングを始めました。そうしたら102歳で片足スクワットが20回以上もできるようになったのです。
祖母の筋トレは毎日1時間半。決めたことは徹底してやり抜く真面目な性格も幸いした。「98歳になっても筋肉はつくれる」。その貴重な経験が『100トレ』の出発点になった。
卓球の福原愛さんの個人トレーナー
近年は数多くのトップアスリートの指導で多忙を極める。12年ロンドン五輪の2年前から卓球の福原愛さんの個人トレーナーを務め、団体銀メダルへと導いた。14年からは青学大駅伝チームのフィジカル強化も担当。箱根駅伝4連覇の陰の立役者でもある。そんな経験や知識が祖母のトレーニングに生きたという。
中野 アスリートも一般の人も体は同じ。メニューは強度や難度を下げればいいだけで、あとは支え方や歩幅などを応用しました。正しくトレーニングをすれば誰でも筋肉はつくし、歩けるようになります。
『100トレ』では100歳まで歩く力を養う『脚トレ』を担当している。単なるスクワットとは異なり、「指折り数えスクワット」や「一本立ち」など独自の理論を注入した多彩なプログラムになっている。
中野 スクワットだけで100歳まで歩けることはありません。歩く動作は非常に複雑で常に小脳でバランスを取りながら進みます。立ち上がるには瞬発力が、長く歩くには心肺機能も必要ですから、いろんなスクワットをやります。
この体操の最大の特徴は、歩くためのトレーニングに加えて、食べるための『口トレ』、トイレに行くための『骨盤トレ』という3つのトレーニングを集約していることだ。『口トレ』は内科医で医学博士の井手友美氏、『骨盤トレ』は運動科学者で美骨盤トレーナーの岡橋優子氏という2人の専門家が担当している。
中野 人は歩ければ幸せになれると思っていました。でも自分の口で食べることができなければ、自分で排せつできなければ人は歩かない。そこに気づいて2人の先生に一緒にやりたいとお願いしました。
日本は4人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎えている。昨年3月末の要介護要支援認定者は全人口の5%を占める658万人。00年以降の17年間で約3倍に膨れ上がり、今後も増加が予想される。
中野 これからも高齢者を対象にしたグループ講習会などを続けていきたい。今から正しいトレーニングを続けていれば、誰でも寝たきりにならずにすむということを多くの人に知ってほしいと思っています。
◆中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)1971年(昭46)8月20日、長野県生まれ。フィジカル強化による競技力向上やケガ防止などを専門とするフィジカルトレーニングの第一人者。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。卓球の福原愛さんやバドミントンの藤井瑞希さん、垣岩令佳さんペアらの五輪メダリストなど多くのアスリートを指導。青山学院大駅伝チームのフィジカル強化指導も担当している。『青トレ』シリーズ、『医師も薦める子どもの運動』(徳間書店)など著書多数。
(2021年1月1日、ニッカンスポーツ・コム掲載)