各界のプロフェッショナルの子ども時代や競技との出会いなどに迫る「プロに聞く」。165センチと小柄ながら男子ゴルフの国内ツアーで2018、19年と2年連続賞金王の今平周吾(28)は、永遠のゴルフ少年だ。小学3年で始めて以来、1度もゴルフをやめたいと思ったことがない。練習に没頭できる環境を求めて高校を中退、英語もできないまま単身渡米。プロになっても成長を求め、昨年9月に行われた全米オープン選手権は、メジャー挑戦8度目で初の予選通過を果たした。「好きこそものの上手なれ」を実践するトッププロが、アマチュア時代を振り返った。

19年12月、日本シリーズJT杯で紅葉を背にティーショットを放つ今平
19年12月、日本シリーズJT杯で紅葉を背にティーショットを放つ今平

メジャー通算8度目、全米オープンは3度目の挑戦で初めて予選を通過した。帰国した今平は「今後に生きる、いい経験ができました」と生き生きと話した。何度はね返されても、そのたびに得るものがある。今平が挑戦を続ける理由は、純粋に「ゴルフがうまくなりたい」。ただそれだけだ。世界最高を争う舞台でプレーし、世界のトップ選手と一緒にラウンド。悔しい思いも数え切れない。だが、それを上回る喜びや収穫、充実感があると知っているから、挑戦をやめない。

埼玉・入間市の仏子(ぶし)小3年で始めてから、ずっとゴルフに夢中なままだ。父博康さんと母正美さんの共通の趣味がゴルフだった。自宅から車で10分の練習場に一緒について行くと、とりこになった。「ゲームとかよりもゴルフが楽しくて」と、すぐにジュニア用のクラブを買ってもらい、放課後も休日も毎日練習場に通った。週末は午前8時から午後6時まで、両親が18ホールをラウンドしている間、1人で1日1000球も練習場で打ち込んだ。「どんどん飛ぶようになると、もっと楽しくなった。やめたいと思ったことは1度もないですね」。自宅でもパターやアプローチの練習を欠かさなかった。

07年12月の日神カップ 日刊スポーツ・ジュニアオープン中学男子で優勝した今平周吾
07年12月の日神カップ 日刊スポーツ・ジュニアオープン中学男子で優勝した今平周吾

それでもプロになりたいと思ったのは、意外にも高校生になってからと遅い。「体が小さかったので無理かなと思っていました」。小中学校時代は、クラスの男子20人ほどの中で、背の順に並ぶと「いつも前から3番目ぐらいだった」という。小学6年までは野球も並行してやっており、体の大きさにほぼ比例して打球は遠くに飛び、球は速くなる姿を見てプロスポーツ選手を遠くに感じていた。

そんな中、埼玉栄高1年時に、日本ジュニア選手権15-17歳の部で優勝した。「ゴルフはアプローチやパターとかがうまければ、大きな人よりもスコアで上回ることができる」。プロになりたいと明確に思った。すると自然に、両親に「米国に行きたい」と伝えていた。「とにかくゴルフ漬けの生活を送りたくて。英語もできないですし、米国に知り合いもいませんが、何とかなると思って」。両親の反対はなく、むしろゴルフに専念できる留学先を探してくれた。高校は1年生を終えた3月に中退し、米フロリダ州のIMGアカデミーへと単身飛び立った。

08年8月、日本ジュニアゴルフ選手権・男子15~17歳の部で優勝した今平周吾
08年8月、日本ジュニアゴルフ選手権・男子15~17歳の部で優勝した今平周吾

米国人2人と同部屋の寮生活が始まった。IMGアカデミーには、さまざまなスポーツでプロを目指す学生が集まるが、ルームメートは2人ともプロゴルファー志望で「話が合ったので言葉も覚えていった」と、日常生活に不自由はなかった。午前中は数学や理科など通常の授業も受けた。午後の練習は「ゴルフ場は寮の近くでいつでもラウンドできるし、練習場も下が芝生だったのはありがたかった」と理想のものだった。

米国での2年間の留学のうちに、マッチプレーの全米ジュニア選手権で8強に入るなど自信も深めた。帰国後の11年にプロに転向。新型コロナウイルスの影響で大会中止が相次ぎ、昨年と今年を統合した今シーズンは、3季連続の賞金王を狙う。ゴルフはプロとして生涯現役を続けられるだけに「ずっと好きなゴルフをやり続けたい」という。少年の時に抱いた「楽しい」「もっとうまくなりたい」という思いが、今も一番の原動力だ。【高田文太】

◆今平周吾(いまひら・しゅうご)1992年(平4)10月2日生まれ、埼玉県出身。仏子小3年の8歳からゴルフを始め、西武中2、3年時に関東ジュニア選手権優勝。埼玉栄高1年時の08年に日本ジュニア選手権優勝。09年に高校を中退し、米IMGアカデミーに留学。同年全米ジュニア選手権で8強。11年に帰国し、19歳でプロ転向。14年に下部ツアーで賞金王となり、15年に初シード獲得。18、19年は連続賞金王。尾崎将司、青木功、中嶋常幸、片山晋呉に続く快挙を達成した。165センチ、66キロ。

(2020年9月26日、ニッカンスポーツ・コム掲載)