<センバツ高校野球:東海大相模3-2明豊>◇1日◇決勝
東海大相模が横浜に並んだ。第93回選抜高校野球大会(甲子園)の決勝は、東海大相模が明豊にサヨナラ勝ち。11年以来10年ぶり3回目のセンバツ優勝を果たした。夏も含めると甲子園通算5回目の日本一で、横浜の優勝回数に並んだ。
門馬敬治監督は、主将代行として優勝旗を受け取る次男の功をベンチ前で見つめながら「こんなにうれしいことはない。甲子園で優勝旗を自分の息子が手にするなんて」と感慨深く話した。
アルプスでは妻七美枝さん(52)が「うちの家族も『つながる』なんですよ」とチームスローガンをポツリとつぶやいた。
長男の大(ひろ)内野手(現・東海大4年)には忘れられない父の姿がある。中1冬、自打球を左目に当て失明の危機に立たされた。「手術しないと失明する」。医師の言葉に泣き崩れた。父はそっと大の肩を2度優しくたたいてくれた。「父の手が力強く感じました」。
「大にもう1度野球をやらせたい」と父と母は病院を探し回った。何度も断られくじけそうになる大を、父は「頑張ろうな」と声をかけてくれた。七美枝さんは「あの時の主人は頼もしかった。野球で見せる姿と違う。息子を守る父の姿でした」と目に涙をためた。
その後、大は手術の末、復帰。視力が弱くても努力を重ね、レギュラーを手にした。そんな兄の姿を見て、妹の花さん(20)、弟の功も続いた。大が3年夏、神奈川県大会決勝で敗れると「父と日本一」の夢を引き継いだ。花さんは19年夏の甲子園出場をマネジャーとして支え、今年、功が「日本一」をかなえた。
兄弟は、昨年まで学校の敷地内にあった自宅で育った。目の前にはグラウンド。毎日の遊びは野球ごっこだった。選手たちが練習を積み、甲子園で活躍する姿を見て憧れた。大会前、大は「功らしく戦えばいいよ」と伝えた。監督の息子でプレッシャーもあるかもしれない。「でも、僕たちが生まれた環境は力になる。幼いころから体に染み付いた相模の野球を存分に発揮すればいい」。兄の教え通り、功は今大会、1番打者として4割2分9厘と大活躍した。
試合後、功は「父を日本一にした、という思いはあります。でも、自分だけの力じゃない。兄姉、母に感謝したい」と笑顔を見せた。家族が「つながる」春。願いが実を結んだ。【保坂淑子】
◆父子V 門馬監督の次男功が主将代行として優勝。主な例では、49年夏に湘南・佐々木久男監督と1年生の信也がV。信也はのちにプロ野球を経て評論家になった。13年夏には前橋育英・荒井直樹監督と主将で4番の海斗が優勝。海斗は延岡学園との決勝で決勝打を放った。05年春には愛工大名電・倉野光生監督が優勝の瞬間、ベンチ入りしていた記録員の次女智加マネジャーから真っ先に抱きつかれた。東海大相模では75年春に原貢監督と長男辰徳が決勝に進んだが、高知に敗れ準優勝だった。
(2021年4月2日、ニッカンスポーツ・コム掲載)