<レンジャーズ4-9エンゼルス>◇26日(日本時間27日)◇グローブライフフィールド
エンゼルス大谷翔平投手(26)が18年5月20日のレイズ戦以来、1072日ぶりの白星を手にした。5回を投げ、3安打4失点。最速99.3マイル(約160キロ)の直球とスプリットを中心に組み立て、9三振を奪った。18年10月1日に行った腱(けん)移植を伴う靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン=TJ=手術)を経ての復活劇。日本を代表するTJ手術の権威は、ここまでのプレーぶりをどう見るのか。のべ300人以上のプロ野球選手の関節手術を執刀した横浜南共済病院のスポーツ整形外科・山崎哲也部長(59)に見解を聞いた。
映像を見る限り、投球パフォーマンスは故障前と同レベルに戻っていると感じます。3年弱を要しましたが、勝利投手は打線などの兼ね合いも必要。医師の立場で判断材料にするのは、手術からメジャー復帰登板までの期間です。TJ手術の執刀例が圧倒的に多い米国の論文によれば、メジャー投手の完全復帰までの期間は術後平均約20.5カ月。大谷投手(664日)は2カ月ほど長いだけで、翌年に左膝も手術したことを考慮すれば、術後のスケジュールプランとしては決して遅くはないと思います。
TJ手術で本当に大変なのは、つらくて長いリハビリです。途中で痛みが出たりして、思うようには進まない場合もあります。同論文によれば、97.2%がマイナー戦で登板できても、メジャー復帰できたのは82.7%。5人に1人は本来の能力が戻りません。術後に「球が速くなる」というのは都市伝説的な面があり、リハビリの努力なくして完全復活は困難です。大谷投手はリハビリが肉体強化にもつながったようで、パワーなど打者のスケール感が増したような気がしました。
ただ体を大きくすることは、「二刀流」にすべてプラスに働くとは限りません。体重が増えると体は硬くなり、動きの切れも鈍りやすい。また、打者では有効な腕っぷしの太さも、投手では一定程度を超えると良さを消す可能性があります。ベストな「均衡点」は二刀流にしか分からない難しさがあります。一般的に右投げの場合、左打ちの方が右打ちより肘への負荷は大きいもの。体調面の不安が解消されても、肩肘のケアには引き続き細心の注意を払いたいです。
▼メジャー移籍後にTJ手術を受けた日本人選手では、大谷はレッドソックス田沢の1128日ぶりに次ぐブランク勝利。田沢は同手術後に先発から救援に転向しており、復帰登板から37試合目の勝利だった。レッドソックス松坂(現西武)は477日ぶり、レンジャーズ・ダルビッシュ(現パドレス)は670日ぶりで復帰勝利。オリオールズ和田(現ソフトバンク)は初登板前に手術し、初勝利はカブスで記録。カブス藤川は1年目の4月に救援勝利も同6月に手術。翌年8月にメジャー復帰を果たし、3年目はレンジャーズでプレーも2勝目は手にできなかった。大塚晶則はレンジャーズ退団後に複数回のTJ手術を受けたが、メジャー復帰できなかった。
◆トミー・ジョン手術 74年に故フランク・ジョーブ博士が左肘の腱を断裂した通算286勝のトミー・ジョンに初めて執刀した。腕や太もも裏、膝、足などの腱を移植する。
(2021年4月27日、ニッカンスポーツ・コム掲載)