東京オリンピック(五輪)の卓球混合ダブルス優勝の伊藤美誠(20=スターツ)が、女子シングルスでも日本女子史上初となる銅メダルを獲得した。卓球を始めた2歳から現在まで、母と二人三脚で歩んだ道のりに迫る。

卓球女子シングルス3位決定戦でユ・モンユに勝利しピースサインを見せる伊藤(撮影・江口和貴)
卓球女子シングルス3位決定戦でユ・モンユに勝利しピースサインを見せる伊藤(撮影・江口和貴)

普段は溺愛も練習時はスパルタ

伊藤は母美乃りさん(45)と二人三脚で戦ってきた。出生時の体重は2800グラム弱。手足は小さかった。

「この子が卓球やりたいってと言って、あぶらがのった時の体形を想像した。両親から想像するに身長も高くならないだろうし、手足も小さいだろう。すると戦型がポッと浮かんで欧州、中国の卓球と同じことをこの子にやらせては違うなと」

伊藤は2歳で卓球を始めた。普段は溺愛したが練習時だけは幼少期からスパルタ。

「あまりにも訓練が厳しいので就寝後、息をしているか気になって口もとに手を置いて息をしているかを確認した。寝顔を見ていると、1日厳しくしていたことを思い出して、苦しいだろうなと思うと涙が出た」

そんな愛娘も今や二十歳。「美誠は基本『調子ノリ』。試合の成績が良いときは特に。その場合は打ち砕きます(笑い)」と話すが、母は常に娘がベストを尽くせるよう精神面や体調面を支えてきた。

卓球混女子シングルス3位決定戦でユ・モンユに勝利した伊藤(撮影・江口和貴)
卓球混女子シングルス3位決定戦でユ・モンユに勝利した伊藤(撮影・江口和貴)

混合ダブルス、シングルス、団体の最多3種目にエントリー。世界選手権ほどの過密日程ではないが、体調管理がポイント。3種目を戦い抜く上で食事や睡眠も大事だが、意外にも「大切なのは休憩時間を長くしすぎないこと」だと母は言う。

「休憩時間にぐっすり寝てしまわないこと。最も大事なのは、体は休ませても、頭は休ませない。そのためには“お笑い”が大事。お笑いの『空気を読む力』は卓球にも通じる」

場面ごとに空気読む力

「チーム美誠」には、笑いが絶えない。宮崎強化本部長は「美誠の練習時間が一番長い。ケタケタ笑いながらずっとやっている」と話す。

美乃りさんによると19年の世界選手権前の合宿中、こんなやりとりがあった。

「ドリフターズ特集」がテレビで放送されていた。伊藤が気に入り、練習中に故志村けんさんの「カラスの勝手」を披露。それを撮影した動画が美乃りさんに送られてきた。見ると音程が間違っていたといい「私が練習場に到着してから約30分間『カラス』のレッスンをして盛り上がりました」。練習の合間の「そういうことが意外と大事なんです」。

お笑いと卓球は、通じるものがあるという。

「松本人志さん。私が大好きだから美誠も見るようになって好きになった。何もないところから空気を読んで笑いをつくるところが卓球にも通じる。美誠は完璧主義者で考え過ぎるところがある。でも卓球は常に流れるスポーツで、止まっていたらだめ。常に生きていて、いろんな形に変わる。場面、場面で空気を読み取ることが大事で、お笑いにも重なる」

実際に26日の混合ダブルス決勝では中国ペアに0-2とされるも、第3ゲームから流れを変え、大逆転の金メダルにつなげた。

卓球混合ダブルス決勝で、優勝を決め歓喜する水谷隼(右)と伊藤(撮影・江口和貴)
卓球混合ダブルス決勝で、優勝を決め歓喜する水谷隼(右)と伊藤(撮影・江口和貴)

かつては渡り鳥の持久力がすごいと思ったら、渡り鳥に関する情報を徹底的に調べて卓球に応用できないかを考えた。娘のためなら何でも取り入れる美乃りさんの教育方針があっての、日本女子初の個人メダルだった。【三須一紀】

(2021年7月30日、ニッカンスポーツ・コム掲載)

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