国立成育医療研究センターは、新型コロナウイルス感染症流行後、子どもの神経性食欲不振(神経性やせ症)の初診外来患者数が約1.6倍、新入院者数が約1.4倍に増加したとの調査結果をこのほど発表した。実数では女子が圧倒的に多いが、初診外来患者の上昇率は男女とも同じで、新入院患者数は女子が多い。年齢別で調査はしていないものの10代が多いとされている。
全国26医療機関にアンケートを実施
この調査は、同センターが行っている「子どもの心の診療ネットワーク事業」の一環としてコロナ禍の子ども(20歳未満)の心の実態調査を把握するため、今年の4月30日~6月30日、全国26医療機関にアンケートを実施したもの。その結果、コロナ禍で食事を食べられなくなる神経性やせ症が増加している、また神経性やせ症の患者が重症化し、入院期間が延びているといった報告があった。
一般に「拒食症」と呼ばれる神経性やせ症は摂食障害の症状の1つで、極端な食事制限と著しいやせを示す。子どもにその患者が増加する背景には、緊急事態宣言や学校の休校などの生活環境の変化によるストレス、感染対策のために家に引きこもっていること、行事などのアクティビティが中止になったこと、友達に会えないこと、新型コロナウィルス感染症への不安などがあると推測される。
調査結果以上に潜在患者や予備軍も
同センターがコロナ禍で子どもを対象に行ったこれまでのアンケート調査「コロナ×こどもアンケート」でも、子どもの大半に何らかのストレス反応が見られたという。また、コロナ太り対策のダイエット特集の報道やSNSでの情報に影響された可能性も考えられる。
同アンケートの第4回調査(昨年11月~12月)では「あまり食欲がない、または食べ過ぎる」と回答した子ども(9~18歳)は全体の約半数(過去7日間のうち数日、半数以上、ほとんど毎日と回答した者の合計)。第5回調査(今年2月~3月)では、いまの自分の体型について、回答者(9~18歳)全体の38%が「太りすぎ」「太りぎみ」と思っていると回答し、48%がやせたいと思っていると回答していた。さらに、やせるために、回答者全体の4%が「食事の量を普段の3分の2以下に減らす」、2%が「食べたものを吐く」と回答していた。
これらのことから今回判明した患者数以上に、摂食障害の潜在患者や予備軍の子どもがいる可能性がある。
同センターは「成長期で神経性やせ症になると栄養不足になり、体の発育、第二次性徴への影響、対人関係の問題などが生じてくる。神経性やせ症の場合、本人が病気を否認して医療機関での受診が遅れがちになる。子どもの食欲や体重の減少に家族や教育機関で気を配り、深刻な状態になる前に、まずは小児科、内科などのかかりつけ医を受診することが必要だ」と述べている。
入院治療の病床数の不足も明らかに
一方で、今回の調査では摂食障害の患者のための病床数が不足していることも明らかになった。摂食障害の病床充足率について回答があった5施設のうち、4施設で病床使用率が増加しており、充足率(現時点で摂食障害で入院している患者数/摂食障害の入院治療のために利用できる病床数×100)が200%を超える施設が2施設あった。
摂食障害を治療できる医療機関が少ないこともあり、特定の施設に入院患者が集中したことや、新型コロナウィルス感染者への病床数を増やしたため、摂食障害の患者の入院まで対応できなくなったことが影響している可能性が考えられる。患者を受け入れる入院病床数を確保することや、摂食障害を診察できる医療機関の拡充が求められている。