「おいしかったです!」
常総学院(茨城)の週末。お昼には選手たちの元気な声が響き渡る。毎週土日は、母親たちが選手の昼食を作るのが伝統だ。昨年は、コロナ禍で中止に。今年4月から、感染症対策を徹底した上で再開。選手たちからも「やっぱりお母さんたちのご飯がおいしい」と大好評だ。
代々続く母たちの食事作り
この日の食事を担当した豊田純子さん(47)は「昨年はコロナ禍でできませんでした。2年生のお母さんたちは一度も経験したことがなかったので、先輩のお母さんたちがいる間に、いい伝統を引き継ぎたい、という思いがありました」と再開理由を話す。
食事を担当するのは、1、2年生の母親たち。10~11人を1組として、1カ月に1、2回「登板」が回ってくる。1回の食費は3万円。メニューは重ならないよう、代々引き継がれている「食事用ノート」にメニュー、買ったもの、量、材料費などを細かく記入。次の担当者は、それを元にメニューの作成を行い、分担して材料を購入し持ち寄る。
母の味は栄養抜群だ。「バランスを考えて献立を作っています。子どもたちに聞くと、お昼はさっと食べられるどんぶりものや、麺類がいい、と。あとはたくさんご飯を食べられるようにお肉が多めですね」。炭水化物に野菜、スープにデザート。小鉢がつく時も。この日は、ネギ塩豚丼で、春雨スープの中に野菜を多く入れ、バランスを整えた。
コロナ禍でもできることを
ほとんどの選手が寮生活をする中で「少しでもお母さんが作ったあたたかいご飯を食べさせてあげよう」ということから始まった常総学院の伝統。コロナ禍で選手の生活も制限される中、親と選手が顔を合わせる貴重な場になった。豊田さんは「コロナ禍では電話で声が聞けても、子どもたちの顔を見たい、という思いもありました。まだ距離を置いてですが、こんなふうに子どもたちの元気な顔を見られるのは本当に楽しいです」。選手たちもまた、コロナ禍はお弁当が多かっただけに、愛情たっぷりの昼食に「おいしい!」と食事も進む。
コロナ禍でもできることを模索した。今夏は県内のチームと練習試合を行うことが多く、近くの練習試合会場の場合のみ、昼食をお弁当にして運ぶように。「献立も、お弁当にしてもいいようなものを考えるようになりました」と対応も変化してきた。選手たちからは「お母さんたちが作ってくれたお弁当はどれもおいしい」「お母さんたちのご飯が楽しみ」と大好評。「本当にうれしいですね。残食もほとんどなくて、作りがいがあります」と、ますますやる気に満ちている。
親と選手、二人三脚で甲子園を目指す。豊田さんは「コロナ禍ではありますが、いい伝統は引き継いで、子どもたちの力になればと思います」と力を込める。今夏、県大会準優勝で甲子園出場を逃した常総学院だが、お母さんたちの昼食でパワーアップ。新チームは再び聖地を目指す。【保坂淑子】
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