食事は心も整える。騎手生活33年目の大ベテラン、内田博幸騎手(50)は減量苦のない体格から、食生活はバランスに重きを置いている。長らく現役を続けられる秘訣はストレスをためず、食事を楽しむこと。毎週土日に行われているレースの合間は小さな“我慢”を重ねるが、レース後に食べる焼き肉が心身を満たすごほうびとなっている。【取材・構成=松田直樹】
我慢しすぎは禁物、自分に合った方法見つけて
豪腕でならすJRAの内田博幸騎手(50)は体の“声”を聞く。内田騎手は「なんでもおいしいと思えるので、食事に大きなこだわりはないですよ」と笑った。騎手生活33年目。今思えば、幼少期から家族同様に太りにくい騎手向きの体形だった。レースに向けて減量が必要となるのは1年に1度あるか、ないか。その時だけはタンパク質が豊富に摂取できるブロッコリー、鶏肉のササミを中心とした食事に切り替える。
だから食事はバランスに重きを置く。「血糖値を上げにくくするために最初は野菜を食べたり、週中には魚を食べるように心がけたり、ね。肉だけだと栄養が偏るから。甘いものはよく食べますよ。基本的には子どもたちと同じメニュー。僕はどちらからいうと体重を維持することを重視するタイプ。何事もバランスです。我慢しすぎは良くないし、ストレスになってしまう。人生もそうでしょう」。食べる米は玄米のみ。夫人の手料理には野菜も同時に摂取できるよう、工夫が凝らされている。プロテインやサプリも摂取するが、頼りすぎることはない。
わずかな“我慢”はレースの時だけ。競馬が開催される土日は朝10時ごろに第1レースを迎え、おおよそ30分おきに1日12レースが行われる。厳格な体重管理が求められるのが騎手稼業。多い日は10レース程度に騎乗するが、その間は食事を取らない。チョコやバナナで栄養補給し、小さなおにぎりを少しずつ口にする。「騎手によっては合間に食事をしている人もいるけど、僕は体にモノが入っているとパフォーマンスが発揮できない。自前でドリンクを用意することはないけど、市販のスポーツドリンクで水分は取るようにしています」。
週末の戦いを終え、開放感に浸るのが日曜の夜だ。コロナ禍の前は東京競馬場でのレースを終えると、お気に入りの焼き肉店によく顔を出した。「アドレナリンが出ているからか、肉が食べたくなるんです。ごほうびに近いかな。科学的に確立されたやり方もあるけど、うまく向き合って自分に合ったやり方をみなさんも見つけてくださいね」。肉は常にサンチュで巻いて口に運ぶなど、細やかな気配りも忘れない。ストレスフリーの食生活はメンタルのコンディショニングにもつながっている。
◆内田博幸(うちだ・ひろゆき)1970年(昭45)7月26日、福岡県生まれ。89年大井競馬場でデビューし04、05年に南関東リーディングを獲得。06年には年間524勝を挙げ日本記録を樹立した。07年NHKマイルCをピンクカメオで制し中央GⅠ初勝利。地方通算3153勝を引っ提げ、08年にJRAの騎手免許を取得すると、同年の宝塚記念をエイシンデピュティで勝利し移籍後初のGⅠを獲得する。09年には全国リーディングを勝ち取り史上初の地方&中央ダブルリーディングに輝く。10年にエイシンフラッシュでダービー優勝。GⅠはゴールドシップの皐月賞、菊花賞、有馬記念、宝塚記念など、12勝。愛称はウッチー、ウチパク。155センチ、49キロ。血液型B。