バレーボール男子Vリーグ1部(V1)堺のオポジットで、18年ジャカルタ・アジア大会日本代表の千々木駿介(31)には毎朝の日課がある。
「卵を5個使って、卵焼きを作ります。2個分は朝に食べて、1個分は昼のお弁当。残りの2個は練習の時にプロテイン代わりに食べます。プロテインを飲むと、お腹を下してしまうタイプで…。近所のスーパーで『卵1パック99円』という時は絶対に買いに行きます」
心がけるのは体重90キロの2倍にあたる1日180グラムのタンパク質摂取。9月に32歳となる実力者は「『身長を伸ばすのにもタンパク質が必要。きちんととった方がいいよ』と中学生の自分に伝えたい」と笑った。
生まれは岡山県南西部に位置し、広島県に隣接する井原市。小4でバレーボールと出会い、のびのびと育った。2歳上の兄は高校で陸上の投てき競技に熱中。千々木が中3だったある日、自宅に招いた友人と夕食を共にすることになった。
「茶わんに好きな量をよそって~」
バレーボール部の友が不思議そうな表情になった。
「茶わん、どこにあるん? えっ、それ!? 丼じゃん!」
兄がラーメン鉢を手に「うちの茶わんはこれ!」と笑わせた。他の家庭でいう「丼」が、千々木家の「茶わん」だった。白米を毎日腹いっぱい頬張る一方、栄養に関する知識は周囲の中学生とさほど変わらなかった。
岡山・金光学園高3年時にはアジアユース選手権(マレーシア)に日本代表として出場。強豪の中央大で主将を務め、堺ではルーキーイヤーの12―13年シーズンに最優秀新人賞を受賞した。チームはリーグ優勝。中心選手として着実にキャリアを積む中で、今から5年前の16年、自らの体と向き合う転機がやってきた。
シーズン開幕後の11月、腰のヘルニアに見舞われた。実戦的な練習から外れ、トレーニングに打ち込む日々。チームのS&Cトレーナーを務める阪本敏夫氏と「食」を見つめ直した。そこでテーマを授けられた。
「タンパク質を、体重の2倍のグラム数とる」―
千々木は苦笑いして振り返った。
「それまで肉100グラムにタンパク質100グラムが入っていると思っていました」
試しに計算してみた。体重90キロの千々木に求められるのは1日180グラムのタンパク質。例えば野菜炒めを食べても、肉の量により、摂取できるタンパク質は変わる。1品1品、できる限り正確に算出した。その結果1食30グラム、1日合計90グラムという数値に行き着いた。
「こんだけしか摂れていないの!?」
数値に向き合い、驚くところからのスタート。阪本氏からかけられた言葉で、印象的なものがある。
「練習と栄養、どっちが大事だと思う? どっちもだよ。50対50でどっちも大事」
千々木はコートを離れると、妻と2人の子どもを支える父親。夫人に過度な負担をかけるのを避け、作ってくれたメニューに加えて、自主的なタンパク質摂取を心がける。「少し足りない」と感じた際は、白米に生卵をかけるなどして工夫する。
「今の時期のオススメはソバです。1束で11~12グラムある。『足りていないな』と思ったときは、サッとゆでてメニューに添えます」
タンパク質はハードな練習、ウエートトレーニングの土台となる。必要量に達していなければ、自らの体を痛めつけることにもつながる。「食」に向き合い約5年。確かな実感がある。
「一般的なイメージとして『年齢を重ねるにつれてケガが多くなる』というのがあると思います。僕は逆で、大学時代や、入団当初に比べて、年間通してのパフォーマンスが、安定してきているように感じます」
国際舞台も経験してきたトップ選手の1人として、次世代に伝えたい。
「例えば『疲労をとる』というのは、マッサージに行って、施術してもらえば即効性を実感すると思います。でも、栄養はそうじゃない。『未来への投資』だと思います。例えば、学校から帰るまで1時間かかるとします。そこでおにぎりだったり、近くの店でサラダチキンを買って食べてみる。僕も決して、完璧とは言えません。0か100じゃなく、80でもいいと思います。向き合うことが次の日、その次の日…と、自分の助けになると思います」
新シーズンは10月15日に開幕し、堺は翌16日に初戦を迎える。入団10季目の節目も「未来への投資」を続ける。【松本航】
◆千々木駿介(ちぢき・しゅんすけ)1989年(平元)9月6日、岡山・井原市生まれ。小4でバレーボールを始め、小6時点の身長は156センチ。岡山・金光学園高時代は午前6時半に朝食、8時半に学校でパン、2時間目終了後におにぎり、昼食で弁当、部活前におにぎり、終了後におにぎり、自宅で夕食と1日7食。中央大を経て、堺に入団。入団時の身長は192センチ。現在は194センチ、90キロ。最高到達点は349センチ。