今春、センバツ初出場を果たした専大松戸。千葉県では、常に優勝争いをする強豪校だが、意外にも寮がなく、選手は全員自宅から通学している。選手たちは日ごろ、どんな食事を摂り、体を強くしているのか。今回は、朝食、昼食、夕食のそれぞれについて、選手のお母さんに登場いただき、食事作りのこだわり、ポイントを聞いた。

笑顔でガッツポーズする専大松戸の3選手。左から吉岡道泰、山口颯大、苅部力翔=2021年6月30日(撮影・河田真司)
笑顔でガッツポーズする専大松戸の3選手。左から吉岡道泰、山口颯大、苅部力翔=2021年6月30日(撮影・河田真司)

朝食・吉岡利恵さん

鶏そぼろご飯、野菜スープ、焼きサケ、だし巻き卵、バウムクーヘン、バナナ、キウイ、ヨーグルト、コーヒー、プロテイン、サプリメント
鶏そぼろご飯、野菜スープ、焼きサケ、だし巻き卵、バウムクーヘン、バナナ、キウイ、ヨーグルト、コーヒー、プロテイン、サプリメント

吉岡家には、定番の朝食がある。「ご飯と汁物にバナナとキウイにヨーグルトは必ず食べさせています」と話すのは吉岡道泰外野手(3年)の母・利恵さん(47)。小さいころからパンが好きな道泰選手だったが「朝、お米を食べないとお昼までお腹が空いてしまう」と、お米は必ず。好きなパンは「ご飯を食べてから」と添えている。ビタミンやミネラル、食物繊維がバランスよく含まれるバナナと、ビタミンが豊富なキウイ。生野菜を好んで食べない道泰選手のために、野菜がたくさん入ったみそ汁や根菜類を入れた豚汁。冬はシチュー。野菜炒めや焼きそばに入れたり、と工夫を欠かさない。お弁当に入れるお肉や鶏そぼろなどを多めに作って朝食に出すなど、朝からメニューは豊富。「どんなに早くとも、朝食はしっかり食べて登校する習慣がつきました」と健康な朝食が、道泰選手の1日の原動力になっている。

カレーライス、野菜スープ、生野菜、バナナ、キウイ、パン、ヨーグルト、プロテイン、サプリメント、コーヒー
カレーライス、野菜スープ、生野菜、バナナ、キウイ、パン、ヨーグルト、プロテイン、サプリメント、コーヒー

小2で野球を始めたが、中学に入り「体を大きくしなければいけない」とチームのアドバイスで、自ら栄養学の本を読み、管理栄養士のセミナーを受講した。

「バランスを考えるように、と言われました。タンパク質にミネラル、カルシウム。食事で不足しがちな栄養素はタブレットで飲ませています」。強制的にたくさんのご飯を食べさせることはしない。栄養を考えながら、嫌いなものがあれば他の食材でカバー。「たまに苦手そうなものも出してみますが、食べたらラッキーくらいの感覚ですよ」と笑顔で話し、料理のストレスは感じさせない。

今春のセンバツ出場では、食事に意外な変化もあった。約1週間のホテル生活で、苦手だった生野菜を食べられるようになった。自宅を離れた生活でも、好き嫌いなく食べた方がいい食材を口にする。自覚の表れと成長を実感した。

1年夏からレギュラーを獲得し、現在は180センチ、80キロ。長打力が武器で、強打の2番を担う。今夏は、春、夏連続甲子園出場へ。「夏の大会は、いつも通り、試合に送り出したいですね」と利恵さん。栄養たっぷりの母の朝食が、道泰選手の活躍を後押しする。

昼食~お弁当・山口千春さん

今春、センバツ出場のため、大阪へ出発する日の朝。山口颯大内野手(3年)の母・千春さん(45)は、颯大選手の大好物のオムライス弁当を作って持たせた。卵の上には、キャンバス代わりにスライスチーズを乗せ、その上に海苔で背番号の「3」。写真を見ながら忠実に再現した打撃フォームに、甲子園での一打を願い「カキィィーン!」。センバツ仕様のキャラ弁だった。大阪に出発した颯大選手からラインで「最高!」というスタンプが送られてきたという。

センバツ出場のため、大阪へ出発した日のお弁当。メニューはオムライス、スライスチーズ、海苔、小松菜と油揚げの煮浸し、タケノコの煮物、ちくわのチーズ巻き、ナゲット、オレンジゼリー
センバツ出場のため、大阪へ出発した日のお弁当。メニューはオムライス、スライスチーズ、海苔、小松菜と油揚げの煮浸し、タケノコの煮物、ちくわのチーズ巻き、ナゲット、オレンジゼリー

母の応援に応えた。初戦の中京大中京戦では0―2と敗戦もプロ注目の畔柳亨丞投手から1安打を放った。

千春さんが食育を始めたのは颯大選手が4年生のころ。当時所属していたサッカーチーム主催の食育セミナーに参加したことがきっかけだった。「なるほど、という感じでした。現在は細かくはやっていませんが、最低限食べなければいけない栄養は考えながら料理しています」。

一番、驚いたのはタンパク質の摂り方。「大人よりも子どもは摂っていい。ちょうど、手のひらサイズくらいと聞き、目からうろこでした」。他にも、夏の疲労回復には豚肉。鶏肉、とくにむね肉は筋肉を形成するのにいいなど、基本的なことを学び、成長期に生かした。「タンパク質と炭水化物が豊富な食材の他に、乳製品とフルーツでビタミンを摂取するようにしています」。

幼少時から好き嫌いがなく、現在も172センチ、75キロと恵まれた体格に成長。現在のお弁当は900グラムを使用し、量よりも質で勝負。「基本は大好きな肉が多め。本人が好きだというものを入れるようにしています」。いつも空っぽになって帰ってくるお弁当と「おいしかったよ」という言葉が最高のほめ言葉。「夏の甲子園に行けたら、もっと気合いを入れて作って送り出します」。千春さんのお弁当を通した息子への愛は広がる。

夕食・苅部葉子さん

苅部家の夕食のポイントは「小分け」だ。専大松戸の全体練習が終わるのは20時ころ。その後、選手たちは各自、自主練習。自宅が遠い苅部力翔外野手(3年)が帰宅するのはいつも21時を過ぎている。母・葉子さん(44)は「疲れて帰ってくるので、食べることよりも睡眠を優先したくなるんです。少しでも食べさせたい。一番は消化にいいもの。お腹に優しいもの。本人が好きなものを中心に。メイン以外は小分けにして出しています。大量にドンと出すと、疲れている時は食欲がなくなってしまうので」と疲れて帰って来る息子を気遣っている。小分けにして出すのはタンパク質を含む肉類に、カルシウム、ミネラルを含む海藻、ヒジキ、ワカメなどだ。

ご飯、具だくさんのおみそ汁、ロールキャベツ、ヒジキ、きんぴらゴボウ、大学イモ、トマト、キュウリの漬物、枝豆、牛乳
ご飯、具だくさんのおみそ汁、ロールキャベツ、ヒジキ、きんぴらゴボウ、大学イモ、トマト、キュウリの漬物、枝豆、牛乳

自宅から通う難しさもひと工夫で解消した。寮生活では、指導者が強制的に食べさせるなど食事の管理ができるが、自宅になると本人のわがままも言えるためか、なかなか徹底できないと聞く。しかし、葉子さんのように小分けにして出すことで、少しずつでも口にすることができるという。「嫌いなものを食べても食事が嫌になり栄養にならないと思うんです。実際に、嫌いなものや、疲れている時に摂った方がいいものは、最後に手をつけます。でも、小分けに出すことで、少しでも口にしてくれるようになりました」。まずは、食べてもらうことが一番。苅部家の夕食には、その工夫で溢れていた。

ハヤシライス、厚揚げ、キュウリの酢の物、生野菜、みかんゼリー、牛乳
ハヤシライス、厚揚げ、キュウリの酢の物、生野菜、みかんゼリー、牛乳

これまで、いろいろなことを試し、現在の夕食スタイルになった。食育の重要性を感じたのは力翔選手が中学入学後だった。軟式野球の強豪・上一色中でアスリートジュニアマイスターの資格を持つOBのお母さんの講習を受講した。「大会前はこういうものがいいとか。疲れているとき、遅い時は消化がいいものがいいとか。実践編でした」。タンパク質の摂り方、筋肉が壊れた時にはビタミンCを補給する、など。プロテインも中学時代から飲んでいた。「ただ、自宅だと外で何を食べているかわからない。実際は本人の自覚です」と口にするが、子どもとの信頼関係を大切にし、自宅ではできる限り、好きなものをおいしく食べさせたいと決めている。

ご飯、具だくさんのおみそ汁、マーボー豆腐、棒々鶏サラダ、うずらの卵とチーズのベーコン巻き、牛乳
ご飯、具だくさんのおみそ汁、マーボー豆腐、棒々鶏サラダ、うずらの卵とチーズのベーコン巻き、牛乳

母は頑張りすぎない。長男の力翔選手を筆頭に育ち盛りの3人の息子を育てながら、共働き。葉子さんは、近くに住む祖父母の力も借りながら家事をこなしている。センバツ出場時の個人アンケートには「好きな食べ物」は「ロールキャベツ」と書かれていた。「実はそれ、祖母が作ったもの。全部私1人でやるのは大変。誰かに頼り周りに甘えながら、無理をしないようにやっています。母の味は伝えたいですが、それが全てじゃないことも分かって欲しい」と、食事を通して周囲への感謝の気持ちも教えている。

もちろん、栄養も大事だが一番大切にしているのは味と色彩。疲れて帰宅したときに、目で見て、おいしそうだと感じ口にして欲しい。時にはお皿にこだわる時もある。「味と気持ちが満たされないと、ゆっくり眠れないと思いますから。練習にも気持ちが入らないでしょうし。無償の母の愛かな」と笑顔を見せた。細かなところまで心が配られた夕食には、苅部一家の楽しそうな笑顔が見える。

息子の頑張りを一番間近で応援

今回、3人の選手のお母さんに取材をさせていただいた。毎日、朝昼晩と選手を支えるお母さんの大変さ。また、最近ではとくに「食育」が盛んになり、お母さんへかかる負担も少なくない。そんな中でも、3人のお母さんたちは、それぞれができる範囲で、自分のスタイルで無理なく取り組んでいた。

(左から)苅部さん、吉岡さん、山口さん。お母さんたちのつながりも深く、情報交換も盛んに行われている
(左から)苅部さん、吉岡さん、山口さん。お母さんたちのつながりも深く、情報交換も盛んに行われている

3人の選手とも「大好物は母の手料理」と口を揃える。苅部さんは「もちろん、勝ちたいですよ。でも、実際には一生懸命頑張っている息子の姿を一番間近で見ている。だから母も頑張らないと。協力できることはしていきたいと思います」と話した。部活に打ち込む選手と、それを支える母親。食事を通し、深い絆が見えた。【保坂淑子】