山村学園(埼玉)は2年半の高校野球生活で、体作りから技術へ、計画的に選手を育成。17年から各大会で4強、8強の常連校に成長した。その要因のひとつに食育がある。
体が変われば世界が変わる
岡野泰崇監督(45)は「どうしても食事をしっかりとってもらわなければ筋肉はできない。練習だけでは痩せてしまいます。でも、うちは寮がありませんから、これまではなかなか練習=食事=休養睡眠になりませんでした」と振り返る。
教壇に立つ体育の授業からヒントを得た。野球経験のない子どもでも、体が大きければバットに当たれば飛ぶ。結果がでなかった当時の野球部にも、キレイなスイングをする選手がいたが、体が細くパワーがない。「まずは技術よりも体だと気が付いたんです」と、新たなスタートを切った。
13年から学内で導入された野球推薦も大きなきっかけとなった。「中学へ勧誘に行きますが、当然、走攻守、誰が見てもいい選手はウチには来ない。それなら、何か1つでも秀でた選手を集め、適材適所で選手を使おうと思ったのです」。入学後は選手育成に力を入れた。「技術の差を埋めるのは何か。それは筋力トレーニングでパワーアップして、ウエートをつけて打球を飛ばす。形よりも力。詰まっても内野の後ろ。泳がされても飛んでいく。ウエートをつけてやっていこうというのが始まりでした」。
試行錯誤の後、この年から独自の計算方法で数値を割り出し、2年春から「その数値をクリアしない選手は試合に使わない」と徹底した。毎月、体重を計りながら管理した。「体が太れば世界が変わる」と選手に言い続けた。「もしかしたら、誰も試合に出られなかったらどうしよう、と不安になった記憶がありますね」と当時を振り返るが、選手たちは見事にそれをクリアし試合に出場。この年の選手たちは、3年夏(15年)には3回戦敗退だったが、チームの土台作りに貢献。新チーム秋の大会では準々決勝進出を果たし、以後、4強、8強の常連校となった。
徹底した食事指導で選手の意識も向上
あと1歩の壁を破るために。19年春からは、スポーツ選手の栄養管理をサポートする会社(株式会社コーケン・メディケア)によるスポーツ栄養管理システムを導入した。月に一度、同システムの体組成測定が行われ、選手個々の測定数値とポジション、季節や大会、練習量などを加味し、食事指導を受ける。練習終了後にはサポート会社が提供する「強化食」と言われる飲料を飲む。食事で不足しがちな野菜などが調整されているといい、選手の体形ごとに用意されている。主将の坪井蒼汰内野手(2年)は「食材や食事の量。油の量なども考えるようになりました」と食事への意識が上がった。今夏、1番打者として活躍した佐藤塁大外野手(3年)は2年半で15~16キロも増えたという。「先輩が結果を残した。励みになりますね」と、ますます食事とトレーニングに力が入る。
よりバランスよく食事をとれるようになった。これまではとにかくご飯を食べることに力を入れてきた岡野監督だったが、「脂肪で太ると、脂質が多くなる。コーケンさんに指導してもらうことで、体重を減らさずに脂質を落とし筋肉量を増やす方法など、アドバイスしていただいています」と、より効果の高い体重の増やし方を実践。一番の成果は、今夏の大会で足がつった選手が1人もいなかったこと。栄養素をバランスよく摂っている影響といえる。
体作りは、技術練習にも大きな効果を発揮した。補食を始めた当初は、体ができるのが3年春。残りの3カ月で技術練習に徹底的に力を注いだ。今では2年11月までには体を仕上げ、12月から技術練習。春の大会から万全な状態で臨めるようになった。冬は体作りに力を入れるチームが多い中、山村学園は連日紅白戦とトレーニングを平行して行い、技術をたたき込む。「土台がないのに、技術練習をやっても身につきません。まずは焦らずに土台作り。そうすればより大きな家が作れますから」。
地道に積み上げてきた食育とトレーニングが実となり結果に結び付いている。岡野監督は「甲子園に行くだけでなく、ベスト8が目標。まだ、過程ですがやってきた10年は間違いではなかったと思っています」と力を込める。甲子園出場の花が咲くのは、もうすぐそこだ。【保坂淑子】
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