春2度、夏7度の甲子園出場を誇る古豪・成田(千葉)は、伝統の力が選手の体作りを支えている。
各自に意識付け、量は自分でコントロール
午後7時。練習を終えた選手たちが、入れ替わりで寮の食堂に現れる。現在、寮生は25人。コロナ禍もあって、黙々とご飯を口に運び、どんぶりご飯をペロリとたいらげた。寮監の櫻井大介コーチは「コロナ禍だったこともあり、現在は、強制的に食べさせることはしていません。食事の量は各自に任せ、それぞれに意識付け。自分をコントロールできる選手になって欲しいと思っています」と話す。
激戦区千葉を勝ち抜くために―。近年の千葉と言えば、木更津総合、成田、専大松戸らの強豪校が上位を独占している。しかし「重量打線」というよりは、投手力でつなぐ野球の印象が強い。「好投手から得点するには、なかなかホームランは出ないので。低い打球で野手の間を抜く打球が理想。体が小さくても鋭いスイングができて打ち返すことができるように体作りに取り組んでいます」。成田は近年、ウエート器具も充実しトレーニングも強化。体を大きくしながら技術もあげる。食事、良質の筋肉、そして技術。この3つが、千葉を制する第1歩と考えている。
プロや大学、社会人の数値目指し、勝負の冬
OBが野球部を支えている。94年冬からOBが経営するオークスベストフィットネスと契約。トレーニング、食事指導、大会期間中の食事のアドバイスなどを担当。各項目の測定結果や、平均のデータが残されている。「このくらいの数値にならないとダメだよ、とか。プロに行った選手はこのくらいの体重と筋肉量があった。大学社会人までいった人はこのくらい。選手たちは、それを目安に食事やトレーニングに取り組むことができるんです」。先輩たちの数値を目標に、在学中5キロ、多い選手で10キロ近く体を大きくするという。
この冬が勝負だ。測定は毎年、4月、10月、2月。「現在は秋の測定からひと冬越えての変化がわかる。やる気のある選手がこの冬わかるんです」。選手たちにとっては、数字でその成果を手にすることができるというわけだ。「歴代を見ていても、ものすごく食べる代はやはり強いし結果を残している。連戦でも夏でも勝ちきれるものがあったのかな、と思います」と分析した。
入学以来、7キロ増えたという伊藤康起外野手(2年)は「空いている時間で卵かけご飯を食べて、自主練習でもウエート。パワーをつけるよう取り組んでいます」と、体の成長とともに、飛距離も伸びてきた。
かつては、夏に食事合宿に取り組んだこともある。99年夏、元日本ハムの岩館学選手を擁し、優勝候補と注目された。その前年夏から、グラウンド近くの中華料理屋と提携。新チームが始まってすぐ、真夏の1週間。寮に全員寝泊まりしながら、朝、昼、晩と中華料理屋でご飯を食べた。朝はご飯をどんぶり2杯。昼はボリューム抜群のお弁当。夜は7~8人で円卓を囲み7~8皿の大皿料理に各自ご飯はどんぶり3杯。ご飯が喉を通らず、苦戦する選手たちに尾島監督が「食べた順に、明日の練習試合、好きな打順を選んでいいぞ」なんてご褒美も。こぞってご飯を食べ「僕が4番を打ちます!」と、元気な声も飛び交ったという。「夏に体重が減ることがなくなりました。一番夏のキツい時期に食べることを続ければ、冬も食べられるんです」と櫻井コーチ。翌年の春は県優勝、夏は4強入りを果たした。昨年から、コロナ禍でお店に出向くこともできず。現在は残念ながら中止しているが、食事の重要性は身に染みて感じている。
少しでも長く睡眠、健康と成長促す
新たな取り組みも行っている。運動(トレーニング)、栄養(食事)、休養(睡眠)の3つの要素を満たし、よりよいコンディションを作るために、尾島治信監督の提案で今春から6時30分の起床時間から、30分遅く7時起床に変更。各部屋の掃除を行い、朝食は7時30分。少しでも長く睡眠を取ることで、選手たちの健康と成長を促そうとしている。
成田は10年夏4強を果たして以降は、甲子園から遠ざかっているが、常に県4~8強入りを果たすなど、安定した力を発揮している。櫻井コーチは「いつも目の前に立ちはだかるチームを、破っていくにはどうしたらいいのか。土俵に上がれば横綱もない。チャンスは十分あると思う。来年こそは、と体を作っていきたい」と声を強めた。10年以来の夏、甲子園へ。古豪復活ののろしが上がった。【保坂淑子】
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