今年、高校野球秋季関東大会で優勝し、神宮大会出場を果たした明秀学園日立。伝統の「強打」に、秋は小技、機動力を加えた圧倒的な攻撃力を見せつけ、来春のセンバツ出場も濃厚だ。

「体心技」で体を大きく、強く

その原動力は、入学時から徹底した食育で体を大きくし、ウエートトレでパワーをつける「体心技」。金沢成奉監督(55)は「まずは体を大きくすること、強くすることが一番大事。『心技体』と言いますが、うちは違う。『体心技』を目指しています」と話す。

元気いっぱい、山盛りのご飯を頬ばる選手たち
元気いっぱい、山盛りのご飯を頬ばる選手たち

選手たちの1日の食事は徹底されている。寮のご飯茶わんはラーメンどんぶり。朝は1杯。昼はご飯が多めのお弁当。夕食は、どんぶりに山盛り2杯で1キロのご飯がノルマ。食堂の担当者が、1杯ごとにご飯を量り、よそってくれる。「入学してすぐはこの量を食べるのは難しい。少しずつ段階を踏んで1年夏をめどに、先輩たちと同じ量を食べられるように取り組んでいます」。

この日の夕食はご飯2杯(1キロ)、みそ汁、肉ジャガ、サラダ、厚揚げ焼き、ささみチーズカツ。これに卵と納豆がつく
この日の夕食はご飯2杯(1キロ)、みそ汁、肉ジャガ、サラダ、厚揚げ焼き、ささみチーズカツ。これに卵と納豆がつく

目指すは『身長-100』の体重。管理栄養士さんが作ったメニューをもとに作られたおかずと、卵、納豆。また自分たちで購入した海苔やつくだ煮、キムチなどをご飯のお供に、山盛りのご飯を、どんどん口に入れていく。 補食も充実している。体が細い選手には、朝、補食として5~6個のおにぎりを用意。休み時間ごとに1個ずつ食べ、体作りに励んでいる。主将の石川ケニー外野手(2年)は「最初は大変でしたが、もう大丈夫。みんなおいしく食べています。多い選手では入学から10キロ近く体重が増えるんですよ」と話し、ご飯を口いっぱいに頬ばった。

野球部のご飯は、食堂の担当者が1杯ずつ量ってよそってくれる
野球部のご飯は、食堂の担当者が1杯ずつ量ってよそってくれる

目指す体は「太く厚く」。ご飯で体重を増やし、現在は2勤1休のウエートトレーニングでタンパク質を筋肉に変える。金沢監督は食育はメリットが大きいと、力を込める。「体を太く厚くすることで、打者は、飛距離、打球速度が変わる。例えば、三遊間で打ち取られていた打球が外野に抜ける。外野が定位置よりも下がり、ポジショニングが深くなる。深くなればヒット1本で得点できるチャンスが高くなるわけです」。太く厚い体が元となり、プレーの強さを生む。

おかず以外にも、卵、納豆、それぞれが用意したご飯のおかずと、飽きないメニューだ
おかず以外にも、卵、納豆、それぞれが用意したご飯のおかずと、飽きないメニューだ

前任校での取り組みに手応え

金沢監督が食育に取り組むきっかけとなったのは、前任の光星学院(現在の八戸学院光星)で監督を務めた09年だった。11年にヤクルトドラフト1位指名を受ける川上竜平外野手が入学した年だった。「甲子園に行くと、大阪桐蔭、智弁和歌山、日大三と体が違う。日本一を取るならまずは体を大きくしなければダメだと。コイツらで日本一を取るという気持ちで体を大きくしていくことをメインに取り組み始めたんです」。翌年3月、監督は退いたが、金沢監督がスカウトしたロッテ田村、阪神北條らが入学。12年まで野球部のサポートを続け、11年夏、12年春、夏と「強打の光星学院」として3季連続で甲子園準優勝を達成した。「体作りは間違いじゃなかった、と実感しました」と、手応えをつかんだ。

(左から)佐藤光成外野手(2年)、石川ケニー外野手(2年)、小久保快栄内野手(2年)、武田一渓内野手(2年)、猪俣駿太投手(2年)。この冬、主力の選手たちがどれだけ体を大きくできるのか楽しみだ
(左から)佐藤光成外野手(2年)、石川ケニー外野手(2年)、小久保快栄内野手(2年)、武田一渓内野手(2年)、猪俣駿太投手(2年)。この冬、主力の選手たちがどれだけ体を大きくできるのか楽しみだ

再び、頂点へのチャレンジだ。今夏、優勝候補と期待されながらも県4回戦で敗退。その後、食事とウエートを見直し徹底。「俺がやりたい野球は、体を大きくして全国に通用するパワーを身に付けることだ」と、秋を迎え結果につなげた。選手たちも、体を大きくする意識が高くなり、この冬はさらにパワーアップを目指し、体を大きくする。金沢監督は「もう二回りは体を大きくさせたい」と、この冬は補食にお餅を取り入れる予定。強打の明秀学園日立が、この冬さらに成長し、来春頂点へ挑む。【保坂淑子】