JRAの熊沢重文騎手(53)は、10月に障害競走通算255勝目を挙げ、JRA障害競走最多勝利記録を更新した。さらに、11月の京都ジャンプS(J・GⅢ)では、8歳馬ケンホファヴァルトを重賞初制覇に導き256勝目。ベテラン騎手の腕はますますさえている。その健康管理には、バランスのいい食事に加え、毎日飲む「甘酒」が欠かせない。金字塔を打ち立てたジョッキーの「食」への考えを聞いた。【取材・構成=網孝広】
大記録を達成したベテラン・熊沢騎手のスタミナはどこから生まれるのか。3000メートルを超える長丁場の障害レースでも、最後まで必死にステッキを入れ、懸命に愛馬を鼓舞する。全力投球の騎乗を続けるには、エネルギー源が欠かせない。10年ほど前から毎日必ず飲む甘酒が、好騎乗にひと役買っている。
「昔から『飲む点滴』って言われているね。飲み始めて10年ぐらいになるかな。ノンアルコールのものを飲む。疲労回復にもなるし、エネルギーにもなる。始めたきっかけ? 嫁さんがいろいろ探してくれたんですよ。食事についても、いろいろ考えてくれているみたい」
夫人の作る食事をおいしく食べ、プラスアルファの栄養として飲む。甘酒にはビタミンB群、アミノ酸、ブドウ糖、オリゴ糖などが含まれている。「飲む点滴」と呼ばれるゆえんだ。
「たくさん種類がある中から、嫁さんがいいものを買ってきてくれる。安眠効果もあるみたい」
アミノ酸は筋肉を作り、ブドウ糖は脳のエネルギーになる。熊沢騎手は服の上からでもがっしりとして、筋肉質なのが分かる。毎週、トレーナーに体のメンテナンスをしてもらい、必要な筋トレもする。何よりも馬に乗ることが一番の体作り、トレーニングになるという。
「馬に乗っていると必要な筋肉はつく。調教は多い時で1日5~6頭かな。それで時間的にいっぱいになる。障害に乗っていると、1頭に40~50分かかる馬もいるので。レースでは、大変なのは馬ですから。僕は馬の邪魔をしないように乗るのが一番の仕事。距離も長いし、馬を我慢させないといけない。それには体力も必要」
障害レースは平地競走に比べて距離が長く、普段の調教時間も長い。筋力、持久力、スタミナがあるからこそ、53歳で大記録を達成できた。バランス良く食べることと、毎日飲む甘酒。サプリメントは特にとらない。米とこうじと水。シンプルな材料が体にいいと考えている。
「いろんな意味で発酵食品というか、自然のものが一番いいんだろうね。余計なものは入っていない。砂糖じゃなくてブドウ糖。そういう糖がいいみたい。集中力を保つのにいい効果。自然とそうなっているのかもしれないですね」
もちろん、甘酒だけで健康は維持できない。夫人の手料理があればこそだ。肉、魚、野菜とバラエティー豊かな食事が日々食卓に並ぶ。熊沢騎手は好き嫌いがまったくない。
「嫁さんがバランス良く作ってくれている。出されたものを喜んで食べる。本当にいろいろ調べて考えて、しっかりやってくれている。栄養価の高いものを使ってくれている。感謝ですね。好き嫌いがないのはすごい強みだと思う。あれ駄目、これ駄目と言っているようでは、いいものも長続きしない」
夫人の手料理で一番好きなものは? と聞くと「全部です」と即答だった。愛妻の真心がこもった料理と甘酒が、ベテランのパフォーマンスを支えている。
◆熊沢重文(くまざわ・しげふみ)1968年(昭43)1月25日、愛知県生まれ。86年3月に騎手デビュー。騎手生活36年目の今も平地、障害両方の免許を持ち、JRA通算は平地794勝、障害256勝の計1050勝。今年は平地1勝、障害6勝(20日現在)。重賞は平地、障害合わせて33勝。JRA・GⅠは88年オークス(コスモドリーム)、91年有馬記念(ダイユウサク)、05年阪神JF(テイエムプリキュア)、12年中山大障害(マーベラスカイザー)の4勝。