甲子園春優勝1回、夏優勝2回を誇る強豪・日大三(西東京)。12月下旬に行われる恒例の強化合宿は、1杯のみそ汁から始まる。
みそ汁で体の中から温める
午前5時15分。選手たちが起床し、寮のロビーに集まってくると、白窪秀史コーチが、前日に女子マネジャーが作ったみそ汁の鍋に火を入れる。選手たちは、紙コップ1杯のみそ汁をググッと飲み干すと、元気よくグラウンドに飛び出していった。
みそ汁は「魔法のスープ」だ。小倉全由監督は「朝起きたばかりは体温が下がっている。みそ汁で体の中から温める。塩分、タンパク質もとれて、栄養素は豊富。まさに『魔法のスープ』なんですよ」と、その効果を実感している。取り入れたのは5年ほど前。「以前は起床してすぐに練習を始めていた。医師からも、体温が下がっているので気を付けた方がいいと注意をされていたんです」。立命大スポーツ健康科学部教授・海老久美子先生(現日本高校野球連盟理事)と出会い、みそ汁を勧められ取り入れた。
栄養も豊富だ。大豆には良質のタンパク質、具材にワカメが入っていればミネラルも摂取できる。大事な栄養は食事から摂取するわけだ。寒川忠主将(2年)は「朝早く起きて、一杯のみそ汁を飲むと、気持ちが切り替わるんです。よし、やるぞ、と。朝練習は走り込みから始まるので、気持ちを入れてスタートを切れます」と、選手たちにも大好評だ。
具は白窪コーチが買い、女子マネジャーが部員55人分を作る。昨年12月23日のメニューは厚揚げ、大根、ネギ。選手たちは箸を使わず紙コップで飲むため、具材は細かく調理するのがポイント。門岡里緒さん(2年)は「どの具材にも合うのでワカメとネギは必ず入れます。あとネギは彩りも豊かになるので」と、細かい配慮で選手たちのパワーを引き出している。
補食には色とりどりの具だくさんおにぎり
女子マネジャーは、補食でもサポートする。1日練習の日には、午後3時におにぎりを用意。米32合分を、6~7種類の具材で握る。1人2個ずつ。サイズは選手たちの3口ほどで小さめだ。「大きなサイズで1個よりも、飽きないように違う味を食べて欲しいと思い、小さめに作るようになりました」。見た目にもカワイイおにぎりに、選手に好評というおいなりさんと、バラエティー豊かにズラリと並ぶ。「具はできるだけたくさん。一口目から具も口に入るように気を付けています」。
具材の研究も欠かさない。火を使った調理を避け、ネットで検索したり、時には保護者からアドバイスをもらったり。「混ぜご飯は茶色が多くなるので、似た色が多くならないようにしています」と見た目にも配慮。「毎日が楽しいです。選手たちには、強化合宿で強い男になって、笑顔で最後まで頑張って欲しいです」。みそ汁におにぎりと、女子マネジャーの愛情が最高の調味料になっている。
12月28日、最後は80メートルダッシュを全員で走りきり、選手たちは涙で昨年の強化合宿を打ち上げた。小倉監督は「女子マネジャーも、毎日、具を考え一生懸命やってくれてくれた。選手たちもこれを支えに、これからも頑張って欲しい」とエールをおくる。選手、そして女子マネジャー。チーム一丸、この冬を力強く乗り切り、今夏の甲子園を目指す。【保坂淑子】
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