<トップ選手のトライ&エラー/4>

栄養バランスを整えれば今より体は強くなる―。頭ではそうと分かっていても、続けることは結構難しい。

東京五輪で11大会ぶり2度目の出場となるハンドボール女子日本代表「おりひめジャパン」も悪銭苦闘の連続だった。2019年の世界選手権で過去最高成績を残すまでに至ったその過程は、一般の人たちにも通じるものがある。彼女らが“失敗”を経てたどり着いた成功経験とは。栄養に取り組む人たちが学べる教訓を紹介する。

食事全体を視覚化した「勝ち飯P.A.D」

栄養成分を確認する選手たち(味の素VP提供)
栄養成分を確認する選手たち(味の素VP提供)

補食摂取の目標達成を「○」「×」でチェックする。楽しみながら「○」が続けば体重も自然と増えるはず-。

そう思って取り組んだ2度目の挑戦も、うまくはいかなかった。食事全体で「体重を増やす」という本来の目的から離れて、ごく限られた補食1つの行動目標に「○×」をつけることだけに意識が向いてしまったのが原因だった。

これらの反省から作成されたのが、1日のトータルボリュームを視覚化した「勝ち飯P.A.D」だった。

勝ち飯P.A.Dシートに書き込まれていった「○」(味の素VP提供)
勝ち飯P.A.Dシートに書き込まれていった「○」(味の素VP提供)

P.A.Dはタンパク質のProtein(プロテイン)、足し算のAddition(アディション)、反復練習のDrill(ドリル)の頭文字を用いたもの。タンパク質5グラムを○1つとして、食事ごとの摂取量をシートに書き込んでいく。

前回のアクションチェックの「○×」と違うのは、1日トータルで考えて、かつ体重の変動と関連させたことだった。

たとえば「肉料理は○3つ」「そば1玉は○2つ」など、その数で摂取量が分かるように設定。その上で、必要な○の数(=摂取タンパク質量)は体重によって違うため「私は1日30個必要」「まだ15個だから補食と夕食で15個増やさないと」など、まるでゲーム感覚のように1日の食事を楽しめた。

体重変動と「○」の個数を一目で比較できることで、カラダ作りの過程が可視化されていく。「朝食が少ないと夜が多めになってしまう」といった傾向も見えた。「なんで食べているのに増えないの…」という疑問はバランスの悪さが原因だと分かり、解消されていくようになった。

サポートする味の素ビクトリープロジェクト(VP)の上野祐輝氏は言う。

「以前のアクションチェックについて、1日トータルの食事はみんな考えるだろうと思っていました。それは前提で、後は何を追加するか具体的に宣言し、できたかチェックしてもらうようにしました。でも、そこ(追加する補食)に注力するあまり、全体が見えなくなってしまった。自分がやっていることをトータルでつなげないと、カラダ作りはできません。それが視覚化できたのが勝ち飯P.A.Dでした」

大幅に増えた除脂肪体重、そして世界へ

2019年12月。目標と定めた2年に1度の世界選手権が熊本で開かれた。大会前の全選手の平均体重は大幅に増。そのほとんどは除脂肪体重、つまり筋肉量だった。プロジェクト自体は成功だった。

ただ、これが競技結果に反映されなければ意味がない。2017年の前回大会は16位。女子日本代表の通称「おりひめジャパン」がどこまで戦えるかは、ふたを開けてみるまで誰にも分からなかった。【今村健人】(つづく)

2019年世界選手権に臨んだハンドボール女子日本代表の選手たち
2019年世界選手権に臨んだハンドボール女子日本代表の選手たち