魚料理を中心とした和食は「長寿の秘訣」であると言われていますが、国内消費量は年々下がってきています。「魚離れ」と言われて久しいものの、下記の図を見ると、実際に魚より肉の消費量が多くなったのは平成28年度(図1)からと比較的最近です。

実はからくりがあって、この図の「食用魚介類」には、かまぼこなどの加工品も含まれています。つまり、生鮮魚介類の摂取量はこの図以上に減少しており、「魚離れ」は顕著に進んでいるのです。

図1=食用魚介類の国内消費仕向量及び1人1年当たり消費量の変化(水産庁HPから。農林水産省「食料需給表」より)
図1=食用魚介類の国内消費仕向量及び1人1年当たり消費量の変化(水産庁HPから。農林水産省「食料需給表」より)

「魚離れ」の原因は

日本人が魚を食べなくなった理由は、次のことが挙げられます。

1、嗜好の変化、肉を好む傾向が高い

図2の年齢階層別の魚介類の1人1日当たり摂取量の変化を見ると、若い世代ほど魚の摂取量が少なく、肉を好む傾向があるようです。骨が多くて食べづらいなどの理由でどの年代も年々食べる量が減ってきているので、若い頃に魚を食べる習慣がなければ、年を重ねても食べる機会が増えることはないとも言えます。

図2=年齢階層別の魚介類の1人1日当たり摂取量の変化(水産庁HPから。厚生労働省「国民健康・栄養調査」に基づき水産庁で作成。令和元年の70歳以上の摂取量は、70~79歳の摂取量と80歳以上の摂取量をそれぞれの調査対象人数で加重平均して算出)
図2=年齢階層別の魚介類の1人1日当たり摂取量の変化(水産庁HPから。厚生労働省「国民健康・栄養調査」に基づき水産庁で作成。令和元年の70歳以上の摂取量は、70~79歳の摂取量と80歳以上の摂取量をそれぞれの調査対象人数で加重平均して算出)

2、価格が高い

最近は物価上昇で食材の価格が全般的に上がっていますが、日本は長年、食材の価格上昇は抑えられていたのに対し、魚の価格は上昇しています(図3)。それによって図4にあるように、生鮮魚介類の1世帯当たり年間支出金額は横ばいなのに対し、購入量が減っているということになります。

図3=食料品の消費者物価指数の推移(水産省HPから。総務省「消費者物価指数」に基づき水産庁で作成)
図3=食料品の消費者物価指数の推移(水産省HPから。総務省「消費者物価指数」に基づき水産庁で作成)

図4=生鮮魚介類の1世帯当たり年間支出金額・購入量の推移(対象は2人人以上の世帯。総務省「家計調査」から)
図4=生鮮魚介類の1世帯当たり年間支出金額・購入量の推移(対象は2人人以上の世帯。総務省「家計調査」から)

3、調理が面倒

食の簡便化志向が強まり、魚の調理方法を知らない、わからないといった人が増えています。保育園では、惣菜でよく使われるサケなど食べ慣れた魚は好んで食べる傾向があるように、提供されれば食べますが、特に若い世代ほど家庭での魚調理を避けるようです。調理した際に出る骨や内臓などの生ゴミの処理、グリルなどの後始末も億劫がらせる要因の1つです。

魚の栄養面での利点

価格が多少高くても、調理がちょっと面倒でも、魚を食べた方が良い理由は何があるのでしょうか。最も大きなものは栄養面での利点です。

1、n-3系多価不飽和脂肪酸

前回まで2回にわたって紹介した「脂質の話」にあるように、EPA、DHAなどn-3系多価不飽和脂肪酸が多いことで注目されています。n-3系多価不飽和脂肪酸の主な作用や効果は、血流改善、動脈硬化疾患(心筋梗塞、脳梗塞)の予防、中性脂肪を下げる、アレルギー症状の改善、認知症予防などがあります。

2、消化の良いタンパク質

白身魚、赤身魚など種類による差はあるものの、魚のタンパク質は肉に比べ、加熱しても固くなりにくく、身がほぐれやすい性質があります。またタンパク質の構造が不安定なことから消化酵素での分解がされやすく、肉だけでなく大豆や乳タンパクに比べても消化が良いと報告されています。咀嚼力や消化能力が低い乳幼児や高齢者に食べて欲しいですね。

3、うま味成分

魚にはグルタミン酸やイノシン酸といったうま味成分のアミノ酸が多く含まれます。うま味成分が多いことで味付けの調味料を減らすことができ、減塩効果も期待できます。

4、タウリン

甲殻類(イカ、タコ)や貝類、魚の血合部分に含まれるタウリンは、血圧上昇を抑制し、肝臓の働きを助ける作用があります。1日300mgのタウリン摂取で生活習慣病を予防できるという研究結果がありますが、タコ、イカ、貝類なら100g程度(生イカ1/3~1/2杯、タコの足1本程度)で十分とれる量です。ただし、毎日それらを100g摂取するのは難しいので、色々な魚介類を合わせて摂って欲しいものです。

5、アンセリン

マグロやカツオといった回遊魚に含まれるアンセリンは、アミノ酸が数個つながったペプチドで、疲労を軽減し尿酸値を下げる作用があると報告されています。

6、鉄

マグロやカツオなどの赤身の魚は日本人の食生活に不足しがちな鉄も豊富です。特に女性は明確な症状が出ていなくても、「隠れ貧血」が半数近くいると言われているので食事からの鉄補給が大切です。

魚介類にはこのような栄養成分があることから、特に生活習慣病を予防したい人や飲酒習慣のある人、心身ともに健康で長生きしたい人は積極的にとることを推奨します。

コスパよく摂取量を増やすには

栄養効果が高いと分かっても価格が高い…という方は、次の3点を参考にして魚料理を増やしていきましょう。最近ではアスリートや健康意識の高い人が積極的に魚を食べるようになっています。「今までほとんど魚を食べていなかった」という人は、まずは週2~3回、おかずに取り入れることを目標にしましょう。

1、旬の魚を購入する

旬の魚はスーパーなどで特売になっていることがよくあります。栄養価も高くおいしいので、ぜひ旬を意識して購入しましょう。

2、安価な「あら」を活用する

あらは魚の頭部や骨近くといった食べにくい部位を集めたものですが、大変安価で売られているので節約になります。汁物や鍋物に入れたり、煮込み料理にしたりすると、うま味やコラーゲンも一緒に摂れておいしくいただけます。朝食のみそ汁に入れても良いですね。

3、加工品を使う

人気のサバ缶をはじめ缶詰や、ちくわなどの加工品は下処理の必要もなくそのまま食べられます。あえ物や煮物の具材にしてアレンジすると様々な料理に使うことが可能で、魚嫌いの人にも食べやすいでしょう。また、冷凍切り身なども保存しやすく、すぐに調理ができますし、余計な生ゴミも出ません。

魚の料理方法がわからない人は、アスレシピにもたくさん魚料理のレシピがありますので参考にしてください。

肉と魚、どちらを食べたらいいか

先のコラムでも伝えたように、妊婦の方は、水銀を多く含む魚の摂取には注意する必要があります。放射能の処理水やダイオキシンの影響があるのではと心配する方もいますが、それについては魚に限らず、口に入れるものすべてが当てはまりますし、現在のところ健康に影響を与えないと考えられています(水産庁HP放射性物質調査から。https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/)。

ここであらためて、「肉と魚、どちらを食べたら良いか」と問われれば、「どちらも満遍なく食べましょう」と答えます。どちらが良い、悪いではなく、肉も魚も体に必要なタンパク源であり、それぞれ体に必要な栄養素が詰まっています。肉食派の方もこれを機に、魚を食べる回数を増やして欲しいと思います。

個人的には、CO2削減、SDGsの観点から肉より魚推しです。

参照:水産省 水産物消費の状況(https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_4_2.html

管理栄養士・今井久美