人の腸は、大きく分けると小腸と大腸になり、そこには細菌が約1000種類、約100兆個も生息しています。強い酸を分泌する胃や消化酵素を分泌する十二指腸では菌が少なく、小腸から大腸では、その環境下で生息できる菌が棲んでいます。腸内環境を整えるためには細菌自体を知ることも大切です。今回は細菌の割合や分類の仕方を説明していきましょう。
小腸に乳酸菌、大腸にビフィズス菌
小腸には、酸素の有無に関係なく生育できる細菌(通性嫌気性菌)が棲んでおり、有用菌(善玉菌)の乳酸桿菌(にゅうさんかんきん、ラクトバチルス、Lactobacillus)が多くいます。盲腸から大腸はほぼ無酸素状態になるため、酸素の嫌いな細菌(偏性嫌気性菌)が中心になり、腸内細菌数も急増します。偏性嫌気性菌の代表として有用菌のビフィズス菌がありますが、大腸にはウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌毒性株、バクテロイデス菌毒性株などの有害菌(悪玉菌)もいます。
では、腸内には有用菌だけいればいいのかというとそうではなく、腸内細菌のバランスは「有用菌2割、有害菌1割、日和見菌(中間的な菌)7割」が理想とされています。有用菌が有害菌より優勢になることが大切です。
やせ菌とデブ菌、理想の割合は?
細菌の分類の仕方として、まずは真正細菌(バクテリア、Bacteria)と古細菌(アーキア、Archaea)に大別し、さらに門(ファイラム、Phylum)、綱(クラス、Class)、目(オーダー、Order)、科(ファミリー、Family)、属(ジーナス、Genus)、種(スピーシーズ、Species)と細分されます。腸内細菌は主に真正細菌のファーミキューテス(Firmicutes)、バクテロイデーテス(Bacteroidetes)、アクチノバクテリア(Actinobacteria)、プロテオバクテリア(Proteobacteria)の4つの門に属しています。
この4つの門のうち、「やせ菌」と呼ばれるバクテロイデーテスは脂肪を燃焼させる働きがあり、「デブ菌」と呼ばれるファーミキューテスは脂肪を溜め込む働きがあると言われています。やせている人はやせ菌が多く、太っている人はデブ菌が多いと言われていますが、理想の割合は「やせ菌6割、デブ菌4割」とされています。
世界の人を3つに分ける「エンテロタイプ」
性別や人種に関係なく、世界の人々を腸内細菌によって3つに分けているのが「エンテロタイプ」です。腸内細菌の3種類の属の比率によって、バクテロイデス属が多い「バクテロイデスタイプ」、プレボテラ属が多い「プレボテラタイプ」、ルミノコッカス属が多い「ルミノコッカスタイプ」に分類します。
バクテロイデスタイプ(1型)は肉食中心のヨーロッパ、アメリカや中国人に多く、プレボテラタイプ(2型)は炭水化物(穀物)中心の食生活である中南米や東南アジア人、ルミノコッカスタイプ(3型)は2つのグループの中間的な食生活を送るスウェーデンや日本人に多いとされています。
食生活で腸内細菌の「タイプ」は変わる
元々、プレボテラタイプの人でも高脂肪食・低炭水化物の食習慣を送っていると、バクテロイデスタイプに変わるという研究報告があるように、食生活と腸内細菌叢には関係があります。同じ日本人でも食習慣によってエンテロタイプに違いが出てくるわけで、「食の欧米化」でバクテロイデスタイプになっている人もいるかもしれません。タイプ別に罹りやすい病気や改善方法も研究されており、それぞれ食生活を整えることで改善できることもあります。
免疫力アップ、睡眠の質の向上、老化予防や肥満予防など、「腸活」のメリットは様々あり、意識している人も多いでしょう。発酵食品、食物繊維、オリゴ糖など、ピンポイントで摂取すべき栄養素や食材が推奨されることもありますが、その前にもっと大切なのは、食事の基本となる「炭水化物、タンパク質、脂質の割合」を整えることです。
さらに腸を元気に動かすために、ストレスをうまく解消し消化吸収機能を低下させないこと、消化管の動きを良くし便秘しないためにも運動すること、消化管の新陳代謝を低下させないために禁煙し、血流を良くすることも大切です。
多くの効果が期待され、研究が日々進んでいる腸内細菌は生活習慣全般と関係がありますね。
参考:公益財団法人 腸内細菌学会HP
参考文献:Ayaka Uchikawa1,Masaru Tanaka1,Jiro Nakayama Japanese. Dynamism and diversity of human gut microbial community. Journal of Lactic Acid Bacteria
2017, Japan Society for Lactic Acid Bacteria 74-83