少し前に16時間ダイエット(断食)が流行りましたが、そこで「オートファジー(細胞が自らの一部を分解して再利用する)」という機能を知った人も多いでしょう。空腹時間が長くなることでオートファジーが働きます。オートファジーは、細胞の新陳代謝と細胞にとって不要または有害な物質を除去するので、生活習慣病をはじめ、多くの病気の発症を抑制できると話題になりました。

人が絶食すると、脂肪組織から中性脂肪が放出され、肝臓がその中性脂肪を取り込みケトン体(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)を作って緊急時の栄養源として利用するので、脂肪を減らすことができると言われています。しかし、絶食時には脂肪組織でオートファジーが活性化し、肝臓に脂肪が蓄積することが分かっています。つまり、絶食すると脂肪肝になりやすいのです。

急激なケトン体上昇で命に関わることも

ケトン体の中でもアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸は脳や筋肉のエネルギーになりますが、アセト酢酸からできるアセトンはエネルギーにならず呼気から排泄されます。

急激にケトン体が増加し、血中濃度が高くなると、ケトン体は酸性ですので血液が酸性に傾くケトーシス、ケトアシドーシスを起こします。ひどい場合は、脱水や意識障害につながり危険な状態になることもあります。糖尿病の人は、高血糖時や加糖飲料をたくさん飲んだときに生じるペットボトル症候群などで起こりやすくなります。

アスリートなどエネルギー消費が大変多い場合、トレーニングによって脂肪を早く分解し、ケトン体を早くエネルギー源として利用できるようになるケースもありますが、基本的にケトン体は緊急時のエネルギー源です。自己流で16時間ダイエットや糖質制限のケトジェニックダイエット(ケトン体を利用したダイエット)を行うなら、脂肪肝や脱水のリスクがあることも念頭に置く必要があります。

ケトン体はあくまでも緊急時のエネルギー源

体は常に作り変えられており、成人でも肝臓は約2週間、赤血球は約120日、筋肉は約180日で半分が入れ替わります。分解されたタンパク質は、成人の場合は約70%が再利用されますが、不足分は常に補う(摂取)必要があります。

要するに、体の材料であるタンパク質を常に摂取する必要がありますが、材料を使って体を作るためのエネルギーも必要です。ケトン体は緊急時のエネルギー源ですので、すぐに利用できる糖質が必要なのです。

厳しい食事制限は体に負担

こう考えると、時々ファスティング(断食)するのは良いと思いますが、毎日16時間ダイエットや厳しい糖質制限で体に緊急事態を起こすことは、体に負担がかかると思いませんか?

また、老化によっても脂肪組織でのオートファジーが過剰になり、脂肪肝を引き起こすことが分かっています。筋肉量も低下しやすい高齢者ほど、糖質制限や絶食、欠食は避けた方が良いでしょう。

管理栄養士・今井久美