<体力の正体は筋肉/第1章:だれにも避けられない体力の衰え(2)>
そもそも「体力」ってなに?
老年症候群の症状の1つとしても挙げられるのが「体力の衰え」です。
ではその「体力」とはなんなのか、どういった意味で使われているのかを、少し考えてみましょう。
私が、厚生労働省の「運動所要量・運動指針の策定検討会」の委員として策定に加わった『健康づくりのための運動基準2006~身体活動・運動・体力~報告書』では、体力(physical fitness)とは、「身体活動を遂行する能力に関連する多面的な要素(潜在力)の集合体」であると定義づけ、客観的・定量的に把握できる狭義の要素として、「①全身持久力(全身持久性体力)、②筋力、③バランス能力(平衡性体力)、④柔軟性(柔軟性体力)、⑤その他(敏しょう性体力など)」の5つで構成されるとしています。
体力には、「行動体力(fitness for performance)」といわれるものと「防衛体力(fitness for protection)」といわれるものがあります。
行動体力は、自ら外部へ働きかける(発動する)力、行動する力、体を動かす力のこと。防衛体力は、体の機能を正常に維持するため、病気やストレス、細菌の感染などの刺激に抵抗する力、寒暑などの外部の環境に適応する力のことを指します(上図)。
ただ、防衛体力は客観的に測定したり評価したりするのがとてもむずかしいので、一般的には、体力といえばこの行動体力のことです。端的に言えば、「体力とは、作業や運動といった身体活動に要求される潜在的な能力、身体的活動能力」ということができるでしょう。
体力は、物事に積極的に取り組もうという「気力」と、知性を磨き創造的に活動するために働かせる「知力」と一体となって、心身の発達や、健康でいきいきと豊かに暮らしていくのに欠かせない重要な源です。
ですから、「体力をつける、体力を高める、体力を維持するように努める」ことがとても重要になってくるのです。
体力を支えるのは筋力と全身持久力
体力のうちで私がもっとも注目したいのが、「筋力」と「全身持久力」です。
筋力は、筋肉(体を動かす骨格筋)が発揮する力のことで、それがどのくらいあるのかは、ほぼ筋肉(筋線維:muscle fiber)の断面積に比例します。
全身持久力とは、「全身持久性体力」ともいい、全身を使った運動をどれだけ長く続けられるかの能力のこと。「スタミナ」「ねばり強さ」という言い方もできるでしょう。運動のために筋肉が長時間活動するには心臓の機能(循環)や肺の機能(呼吸)も大きく関係していることから、全身持久力は「心肺持久力(有酸素性能力)」「心肺体力」とも呼ばれます。
なぜ、筋力と全身持久力に注目するのか、それには3つの理由があります。
第1の理由は、筋力と全身持久力が高いと、生活習慣病を発症するリスクが低くなり、その予防にもなるという点です。自分にマッチしたトレーニングをすれば、筋力と全身持久力は必ず高まります。
第2の理由は、体力テストを行えば定量的に測定ができて、現在の自分の筋力や全身持久力がどの程度なのかが客観的に評価できる点です。
第3の理由は、筋力や全身持久力を高めれば、柔軟力やスピード力など体力のほかの要素にもいい影響がもたらされるという点です。
こうした理由によって、生活の質(QOL)が高まり、意欲的に行動することができるようになります。
今どきのよく使われている表現を真似れば、「体力の正体は、筋力と全身持久力にあり」といっていいかもしれません。
あなたの筋力と全身持久力がどのくらいあるかは、自分でもすぐにチェックできます。
もちろん、活動的に年を重ねる「アクティブ・エイジング」につなげるのに必要なのは、体力だけではありません。含まれる成分のバランスがいい血液、内壁に詰まりがなく弾力のある血管、正常でスムーズな血流を総合した「血液力」、骨密度の高い強い骨、軟骨のすり減りがなく動きがスムーズな関節を総合した「骨力」を高めることも、けっしておろそかにできません。
(つづく)
※「体力の正体は筋肉」(樋口満、集英社新書)より抜粋