<体力の正体は筋肉/第2章:体の動くところに筋肉あり(3)>

骨格筋は筋細胞の束でできている

ここで、体を動かす骨格筋のなかがどうなっているのか、ちょっとのぞいてみることにしましょう。

上図を見ると分かるように、骨格筋はたくさんの「筋線維」といわれる筋細胞の束でできています。筋線維は、直径が20~100μm(マイクロメートル。1μmは0・001㎜。1μ〈ミクロン〉)、長さが数㎜から長いもので数十㎝の細長い1つの細胞です。

この筋線維には、収縮の速い「速筋線維(fast twitch:FT)」と、収縮の遅い「遅筋線維(slow twitch:ST)」の2つのタイプがあります。

さらに、筋線維を入っていくと、「筋原線維」が詰まっています。「筋節(サルコメア)」と呼ばれる最小単位が連なった構造で、そこには2種類のたんぱく質の鎖(フィラメント)が多数、規則正しく配列されています。

太いほうを「ミオシン・フィラメント」、細いほうを「アクチン・フィラメント」と呼び、このフィラメントが、骨格筋の収縮に大きく関係しています。

筋線維のなかにあるのは、フィラメントだけではありません。

筋収縮のエネルギーとなるアデノシン三リン酸(ATP)の生産工場であるミトコンドリア、たんぱく質の合成工場であるリボソームなどの小器官、ATPを再合成する材料となるグリコーゲン顆粒(微小な粒)、脂肪滴(脂質やたんぱく質などを含んだ球形の液滴)なども、筋肉にとって重要な働きをしています。

あなたの筋肉は短距離型、それとも長距離型?

骨格筋が収縮するとき、骨格筋をつくる速筋線維と遅筋線維の2つのタイプがどちらも動員されるわけではありません。

文字通り、速くて瞬発的な動きをするときには主として速筋線維、遅くて持続的な動きをするときには主として遅筋線維と、私たちはどのような運動や日常の動作をするかによって、どちらかのタイプを優先的に使い分けているのです。

太ももの前側に大腿四頭筋という筋肉があります。立っているときや歩いているときに主として使われているのは遅筋線維ですが、ジョギング、ランニングと走る速度を上げていくにつれて速筋線維が動員される比率が高まり、全力疾走しているときに使われるのは、ほとんどが速筋線維です。

スポーツ選手をみても、短距離の100m走や跳躍、投擲など瞬発力が必要な競技の選手では速筋線維が、長距離走やマラソンといった持久力が必要な競技の選手では遅筋線維が多くなっています。

この2つのどちらの比率が高いか低いかは、体のどの部位にある骨格筋かによっても異なり、また遺伝の影響も小さくありません。

言い方を換えれば、速筋線維の比率が高い人は短距離・瞬発型、遅筋線維の比率が高い人は長距離・持久型の競技に向いているといえるでしょう。

自らを振り返ってみて、100m走は苦手だったけれど長距離走は得意だったという人の筋肉は遅筋線維の比率が高く、長距離走は苦手だったけれども100m走には自信があったという人の筋肉は速筋線維の比率が高いといえます。

その究極がオリンピックに出場したアスリートたちで、短距離・瞬発型競技者の筋肉は4分の3が速筋線維、長距離・持続型競技者の筋肉は4分の3が遅筋線維で占められていることが分かっています。

実は、この速筋線維と遅筋線維の違いは、収縮が速いか遅いかだけではありません。

速筋線維は、瞬間的に大きく強い力を出しますが短時間で疲れやすく、遅筋線維は、瞬間的に大きな力は出せませんが、長時間使っても疲れにくいという特徴があります。なおかつ、加齢によって減りやすいのは速筋線維であることが明らかになっています。年齢を重ねると、瞬間的に大きく強い力が出せなくなるのはこのためなのです。

遅筋線維よりも速筋線維を優先してきたえるには、有酸素運動よりも瞬間的に強い負荷を与えるレジスタンス(筋抵抗)運動のほうが効果的です。

余談ですが、速筋線維は白っぽい色をしているので「白筋」、遅筋線維は赤っぽい色をしているので「赤筋」とも呼ばれます。この呼び分けは、エサをとるときの動きが俊敏な白身魚、長い距離を回遊している赤身魚とも共通しています。

白身か赤身かは、ミオグロビン(筋肉ヘモグロビン)という筋肉中の色素たんぱく質の含有量によって区分されます。筋肉中に酸素を貯蔵する役割をしており、含有量が多ければ身は赤くなり、酸素と結合する力が強くなります。

また、細胞内にあるミトコンドリア(細胞が使うエネルギーのほとんどをつくり出し、持久力に関係する小器官)が多いと、筋肉はより赤くなります。

(つづく)

※「体力の正体は筋肉」(樋口満、集英社新書)より抜粋