<体力の正体は筋肉/第3章:筋肉は使わないとすぐに衰える“怠け者”(1)>
筋量は全体重の40%にもなる
第2章では骨格筋のしくみについてふれましたが、ここからは、骨格筋が体力とどういったつながりがあるのかをみていくことにしましょう。
全身に400種類以上ある骨格筋の量がどのくらいかを示すのが「筋量」です。
筋肉の重さでいうと、新生児では体重の約25%と推定されていますが、成人になると、男性は全体重の40~45%と半分近くにもなり、女性でも全体重の30~35%と、かなり高い比率には驚かされます。
市販されている体組成計を使って自分でも筋量は測れますが、正確に知りたければ、病院などでMRI(磁気共鳴画像法)や、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)をお願いするしかありません。
おおまかな筋量を推定するのでしたら、「除脂肪体重」を用いる方法があります。
除脂肪体重は、体重から体脂肪量を除いた重量のことで、そこには筋肉、骨、内臓、血液、水分の重量もすべて含まれてしまいますが、除脂肪体重をおおよその筋量と見なしてしまおうというものです。
体脂肪量は「体重×体組成計で測定した体脂肪率」の計算ですぐに出ますから、
「除脂肪体重=体重-体脂肪量」
となります。
出生時に比べて男性は30~40倍程度、女性は20~30倍程度にまで、なぜ筋量が増加するのかといえば、先に述べたアクチン・フィラメントやミオシン・フィラメントなどの収縮たんぱく質やその他の構造たんぱく質がつくられて、筋線維が太く長くなり、その数が増えるからです。
たんぱく質は、発育やトレーニングにともなって分泌されるホルモンや成長因子、力学的ストレス(運動刺激)、細胞内の環境変化などを受けて、1本の筋線維にたくさん存在する核内の遺伝子(DNA)情報が、いわゆる「転写」や「翻訳」と呼ばれる機構(メカニズム)によって伝えられてつくられます。
筋肉のピーク年齢は意外と早く訪れる
いっぽう、筋肉が発揮する力がどのくらいあるのかを示すのが「筋力」です。
筋量が増えるのが「筋の形態的変化」というならば、筋力が高まるのは「筋の機能的変化」といえます。
握力(物を握る手の力)や背筋力(背筋をのばすときの力)は、もっともポピュラーな筋力で、専用の計器を使えばどちらも簡単に計測できます。
どのくらいの筋力があるのかを決めるのは、筋線維の断面積です。
「力がついた」「力強くなった」のは、筋断面積が大きくなるのに比例して筋力が高まったからです。筋線維の断面積は、超音波法、CT(コンピュータ断層撮影法)やMRIで測れます。
男性の場合は、上半身、下半身ともに筋線維の断面積が1年間で増える量は12~13歳でピークに達し、18歳ぐらいまで増加の傾向がみられます。女性の場合は、14歳以降増えるペースは緩やかになるため、14歳ごろから男女の差は顕著になります。
ただ筋力は、筋線維の断面積以外にも、筋線維の配列、筋収縮に加わる筋線維の総数(動員率)、筋線維のタイプ、骨格筋が骨に付着する部位である腱組織の長さや粘弾性、関節の構造、大脳皮質の興奮度(モチベーション)などにも影響を受けます。そのために、断面積のピークと筋力のピークには多少のズレが生じてしまうわけです。
こうしたさまざまな要素が関係して行き着いた筋力のピーク年齢は、意外と早く訪れます。男性は20~30歳、女性は20歳ごろで、40歳ぐらいまではピークのレベルがなんとかキープされるのが一般的です。
筋量も筋力もピークを過ぎたら衰えるばかり
誕生してから成長とともに筋量も筋力も増していきますが、それがピークに達すると、しばらくは維持できるものの、そのあとは、あれよあれよという間に低下の一途をたどっていきます。
全身筋量と、体重に占める筋量の割合が、男女それぞれどう変化していくかを示したのが次の図です。
この図を見ると、全身筋量は男女ともに45歳あたりから減少がはじまり、50歳を過ぎたあたりから減る速度が急激に速まることが分かります。全身筋量の割合が低下する度合いは、女性に比べてピーク値が高いだけに男性のほうが顕著です。
健康な一般成人であっても、筋量は20~50歳の間に約10%減少、50~80歳の間にはさらに30~50%と急激に減少するともいわれます。
また、筋力も、健康な成人の場合は40歳ぐらいまではキープされますが、その後は低下します。ふだんあまり運動をしない人は特に、早ければ30歳ごろから毎年0・5~1%程度筋力が低下するともいわれます。
握力を例にとってみると、ピーク値に対して50歳で90%、60歳で80%、70歳で70%と、50歳を過ぎると10年ごとに10%程度ずつ低下します。
また、背筋力は、ピーク値に対して50歳で85%程度、60歳で65%程度、70歳で男性は55%程度、女性は45%程度と、70歳になるとピーク値の半分近くにまで低下してしまいます。
このような数字を見ると、まだまだ若いつもりで、ぼんやりと時を過ごしている場合ではないかもしれません。
(つづく)
※「体力の正体は筋肉」(樋口満、集英社新書)より抜粋