<体力の正体は筋肉/第3章:筋肉は使わないとすぐに衰える“怠け者”(3)>
筋肉を使わないとなる病気「サルコペニア」
加齢にともない、筋量の減少が起こり、筋力も低下し、歩く速度が遅くなるといった運動・身体機能に障害が生じて自立した生活ができなくなり、最終的には死のリスクにもつながる。そう診断されるのが「サルコペニア(筋機能低下症候群、筋量減弱症候群)」です。ギリシャ語で、筋肉をあらわす“sarco”と、喪失をあらわす“penia”を合わせた造語です。
サルコペニアには、加齢以外に原因が考えられない「原発性(一次性)」と、身体活動量、病気、栄養が原因の「二次性」の2種類があります。
「二次性」の原因として挙げられるのが、必要以上に安静を続けることによる不活動、不活発な生活習慣、体調不良、進行した臓器不全、炎症性疾患、がんなどの悪性腫瘍、内分泌疾患、低栄養、摂食不良、食思(食欲)不振などさまざまです。
日本では高齢者の約10~15%がサルコペニアにかかっていると推計され(『長寿医療研究開発費平成26年度総括報告書─フレイルの進行に関わる要因に関する研究』国立長寿医療研究センター)、男性は80歳、女性は75歳を過ぎると患者の数が急増しています(髙石昌弘監修『からだの発達と加齢の科学』大修館書店)。
サルコペニアの治療法は、現時点で国内承認されている薬がないために、運動と栄養療法の併用しかありません。
運動によって、筋たんぱく質の合成を促進し、分解を抑制する「たんぱく質同化ホルモン」の血中濃度が増えることが知られています。
原因の1つとして挙げられる低栄養でも、特にたんぱく質の摂取不足が目立つことから、食事による適切な摂取が必要になります。
この動き、できますか?(サルコペニアの診断法)
サルコペニアにかかっているかどうかは、アジア・サルコペニア・ワーキング・グループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)が作成した基準により、歩行速度、握力、四肢骨格筋指数を測定すれば診断できますが、もっと簡単にその可能性が分かる方法があります。飯島勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構教授)が考案した「指輪っかテスト」です。
両手の親指と人さし指の指先をくっつけて輪っかをつくり、ふくらはぎのもっとも太いところを囲みます。そのときに輪っかとふくらはぎの間にすき間ができるとサルコペニアの可能性は高く、輪っかでふくらはぎを囲みきれなければサルコペニアの可能性は低いと判断できます。ふくらはぎのほうが細いと、サルコペニアによって筋量が減少したと考えられるからです。
ほかにも、「開眼片脚立位テスト」「5回立ち座りテスト」があります。両眼を開けたまま片脚立ちができる時間が8秒未満であったり、立ったり座ったりする動作を5回行うのに10秒以上かかってしまう場合には、サルコペニアが疑われます。ぜひ、確かめてみてください。
下半身の機能が衰える「サルコペニア肥満」
筋量が減少するサルコペニアと体脂肪が増えてしまう内臓肥満が同時に起こる「サルコペニア肥満」が近年注目されています。
サルコペニア肥満が怖いのは、サルコペニアによって、歩行の速度が遅くなったり、階段の上り下りが困難になったりといった下半身の機能が衰えるばかりではないことです。通常の内臓肥満と比較して、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの代謝疾患や、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクがさらに高まると考えられているからです(小原克彦「サルコペニア肥満」『日本老年医学会雑誌』51巻2号、2014年3月、日本老年医学会)。
脂肪は増えていても、サルコペニアによって筋量が減少しているのでそれほど太っているように見えないために気づきにくく、診断されたときにはさまざまな症状がかなり進行していることがあります。そのため、早めの診断と治療が大切です。
(つづく)
※「体力の正体は筋肉」(樋口満、集英社新書)より抜粋