<体力の正体は筋肉/第5章:下半身と体幹の筋肉をきたえなさい(3)>

ローイング運動は最強のトレーニング

骨格筋をきたえて体力や健康を維持するためには、できるならば、有酸素運動とレジスタンス運動をあわせて行うのが望ましいのですが、実は、その2つを組み合わせた、私がもっともおすすめするトレーニングがあります。

それが、「ボートを漕ぐ」という意味の「ローイング(rowing)」という運動です。

ローイングは、日本では欧米に比べてまだまだ身近なトレーニングとはいえませんが、有酸素運動とレジスタンス運動の利点を持ち合わせた最強のトレーニングなのです。

ではなぜ、ローイングが最強なのか、いくつかのデータから検証してみましょう。

ローイング運動が最強のトレーニングの理由/体力の正体は筋肉のイラスト

ローイングをする人の最大酸素摂取量をみると、年齢を問わず、しない人と比べて高くなっています。最大酸素摂取量は、運動中に体内に摂取される酸素の単位時間あたりの最大量で、運動生理学ではもっともよく使われている持久力の指標です。これによってその人の全身持久力が分かります。

加えて、ローイングの動きによって、腕、体幹、脚など全身の70%もの筋肉が動員されてその機能が高められることから、理想的なレジスタンス運動ともいえます。

ローイングをする中高年男性を対象に、体をつくる成分(身体組成)を調べた結果があります(樋口満『ローイングの健康スポーツ科学』市村出版)。それによれば、筋断面積、脚伸展パワー(股関節とひざ関節の伸展によって外部に作用する力)、体幹屈曲力(腹筋力)の数値すべてが、運動習慣のない人の数値を上回っています。

なかでも、大腿部の筋肉(大腿四頭筋、縫工筋、内転筋群、ハムストリングス)の筋断面積と、体幹部の筋肉(腹直筋、腹斜筋、大腰筋、脊柱起立筋など)の筋断面積はより高くなっていて、運動習慣のない人に比べて大腿部は全体で13%、体幹部は全体で20%上回りました。

さらに個別に見てみると、大腿部では縫工筋が20%、大腿四頭筋が14%、ハムストリングスが17%、体幹部では大腰筋が64%、腹直筋が27%、脊柱起立筋が14%上回っていて、特に体幹部の大腰筋と腹直筋が、ローイングによって強い影響を受けていることが分かります。

また、脚伸展パワーと体幹屈曲力を見ても、ローイングをする人のほうが運動習慣のない人に比べて、脚伸展パワーは43%、体幹屈曲力は42%も高い数値を示しています。

ローイングは生活習慣病の予防にもなる

ローイングのすばらしさは、骨格筋をきたえるだけではありません。肥満、動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病といった生活習慣病の予防にも有効であるというさまざまな研究報告があります。

BMI(Body Mass Index:体格指数)、体脂肪率、腹部脂肪面積のいずれも肥満度を示す指標ですが、ローイングをする人は運動習慣のない人に比べて低くなっています。

PWV(Pulse Wave Velocity:脈波伝播速度)は全身の動脈硬化度を示す指標で、加齢とともに上昇しますが、こちらもまた運動習慣のない人に比べて低くなっています。

心臓の厚さ、重さ、機能(収縮率)は、ローイングをしない人に比べて高い値です。心臓の壁や内壁が厚くなると心臓から送り出される血液の量も増え、心筋梗塞などの循環器系疾患の予防にもつながります。

おもに成人になってから発症する糖尿病(2型糖尿病)は、すい臓から分泌されるインスリンの効き目が悪くなって糖が処理されずに血液中に大量に残ってしまい、慢性的な高血糖になることがおもな症状の病気です。食事などで摂取した糖の80%は骨格筋で処理されるために、ローイングによって骨格筋の糖代謝機能を高められれば、糖尿病の治療や予防にもつながります。

こうしてみると、ローイングはまさに「いいこと尽くめ」としか言いようがありません。

(つづく)

※「体力の正体は筋肉」(樋口満、集英社新書)より抜粋