<女は筋肉 男は脂肪/第4章:今、気にすべきは 女性は「筋肉」をつける・男性は「脂肪」を減らすこと(1)>

女性の「やせ」はなにが問題か

女性はダイエットで体脂肪を落としスマートな体つきになりたい、男性は筋トレで筋肉をきたえてたくましくかっこいい体をつくりたい……。

そういったあこがれを抱く人は多いのではないでしょうか。ということはつまり、「ダイエットは女性のもの、筋トレは男性のもの」というイメージが、これまでは強かったように思えます。

ところが、ここまでふれてきたさまざまな男女差を踏まえると、こうした世間の常識とは逆転した健康課題がみえてきます。

今、ミドルからシニアエイジがことさらに気にすべきことはなにかといえば、「女性は筋肉をつける、男性は脂肪を減らす」ことなのです。

詳しくみていきましょう。

年齢を問わず、多くの女性の「やせ願望」は強く、男性に比べて内臓脂肪の量は圧倒的に少ないにもかかわらず、無理なダイエットをくり返す傾向にあります。

特に、若い女性に「やせ」が多いのは、厚生労働省の『平成29年国民健康・栄養調査結果の概要』からも分かります。

肥満度は、BMIであらわされ、18・5未満は「低体重(やせ形)」、18・5以上25未満は「普通体重(標準体形)」、25以上35未満が「肥満」、35以上が「高度肥満」と判定されます。

18・5未満のいわゆる「やせ」の女性は、30歳代は13・4%、40歳代は10・6%、50歳代は10・1%なのですが、20歳代は21・7%ときわだって多くなっています。

BMIと死亡率の関係をみても、BMIがもっとも高い群(BMI30~39・9)の死亡率がもっとも高いと思われがちですが、意外なことに、男女ともに、もっとも低い群(BMI14~18・9)のほうが上回っているという追跡調査データがあります。

BMIと死亡率の関係のグラフ

「太りすぎも怖いが、やせすぎはもっと怖い」ということです。

新体力テストの結果をみても、30歳代後半の女性だけ合計点が低下している理由として、20歳代に多い「やせすぎ」の影響も十分に考えられます。

BMIは、「体重(㎏)÷身長(m)2乗」の計算式で簡単に求められますから、今すぐにでもチェックして、普通体重の範囲内を維持していくことが大切です。

特に、若い女性の5人に1人といわれる「やせ」の問題がなかなか改善しないのは、「健康でいたい」というよりは「きれいになりたい」「好きな服を着たい」「もてたい」といった見た目の価値観をより重視していることが理由と思われ、適切な体形を保つことがなぜ大切なのかの認識が不十分なのではないか、と少し気がかりです。

そのために、「やせ」にもかかわらず「普通体重」だと自分を誤認して、やせる必要はまったくないのに無理なダイエットに走れば、さまざまな健康リスクを高めることになります。本来、健康になるために行うべきダイエットで不健康を招いてしまっては、本末転倒です。

太っていることより筋肉が少ないことが問題

無理な、過激なダイエットをした場合の代償としてまず考えられるのは、摂食障害です。

摂食障害には、「拒食症」ともいわれる「神経性食欲不振症」や、「過食症」ともいわれる「神経性大食症」などがあります。

摂食障害の発症率は世界的に増加の一途をたどっていて、日本でも患者数が急増しています。その背景には、ダイエット法の情報が多すぎること、やせていることへの賛美と太っていることへの嫌悪の風潮などがあります。

さらに無理な減量を続ければ、ホルモンをつくって分泌する内分泌臓器(脳下垂体、甲状腺、副甲状腺、すい臓、副腎、卵巣、精巣など)の障害によってホルモンの作用に異常が生じ、内分泌代謝疾患を発症してしまいます。そのおもな症状として、低身長症、バセドウ病、甲状腺機能低下症、高カルシウム血症、骨密度の低下、無月経、貧血、筋量の減少といった深刻な健康障害を招きかねません。

このうちの骨密度の低下は、運動不足とも関連が深いのですが、BMIが18・5未満の「やせ」の人は、いくら運動を習慣的に行っても骨密度は高くならないという調査結果があります。

そもそも女性は男性に比べて骨粗鬆症になりやすいのです。

若い年代のこのような症状は慢性化することも多く、低骨密度はそのまま骨粗鬆症に移行し、筋量の減少は筋力の低下を招き、死のリスクもある「サルコペニア(筋機能低下症候群、筋量減弱症候群)」、そしてさらに「ロコモティブシンドローム(運動器機能低下症候群:通称ロコモ)」にまで発展する可能性があります。

女性の場合、太っていることより筋肉が少ないことのほうが問題であると、あらためて強く認識する必要があります。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋