<女は筋肉 男は脂肪/第4章:今、気にすべきは 女性は「筋肉」をつける・男性は「脂肪」を減らすこと(2)>

死のリスクがある怖い疾患「サルコペニア」

「サルコペニア」は、加齢にともなって著しい筋量の減少と筋力の低下が生じる疾患です。

原因はおもに身体不活動と低栄養で、シニアの約10~15%がかかっていると推計されます。男性は80歳、女性は75歳になると急増しています。

おもに抗重力筋の筋量が減少するために、立ち上がるのが億劫になる、つまずきやすくなる、歩く速度が遅くなる、階段の上り下りがつらくなる、放置すれば歩行困難になって自立した生活ができなくなるなど、生活の質(QOL:Quality of Life)が損なわれて死のリスクにつながりかねない恐ろしい疾患です。

意識的に強度がやや高い運動を行うことで、サルコペニアの進行をある程度おさえることができます。また、食事でたんぱく質をきちんととることも必要です。

運動器機能が低下する「ロコモティブシンドローム」

骨粗鬆症、変形性腰椎症、変形性膝関節症といった骨やひざの疾患やサルコペニアなどが原因で運動器機能が低下してしまうロコモティブシンドロームは、年齢による差はありますが、要介護にまで進行してしまう危険性があります。

歩行速度などを測定してロコモティブシンドロームにかかっているかを判断するチェックで1つでも該当した人の割合は、30歳代~70歳代のすべての年代で女性のほうが男性を上回っています。

ロコモティブシンドロームにつながりやすい骨粗鬆症の患者数は女性のほうが多いことや、下肢の筋力は男性より女性のほうが弱いことを考えると、女性のほうがロコモティブシンドロームになりやすいといえるかもしれません(公益社団法人日本整形外科学会)。

「やせ」は認知症を招きかねない

やせていると認知症を発症しやすい。それは、けっして突拍子もない話ではありません。

体形別の認知症発症リスクのグラフ

BMIを指標とした体形の分類と、認知症の発症率との関連を調べた最新の調査結果が一般社団法人日本老年学的評価研究機構から発表されました。

それによると、普通体重(標準体形)の女性の認知症発症率を1とした場合、肥満は0・82、高度肥満は0・61と1を下回っていますが、低体重(やせ形)は1・72と1を上回り、やせている女性のほうが認知症の発症率は高い結果となりました。

いっぽう男性の場合は、肥満は0・73、高度肥満は0・91と、むしろ認知症の発症率は低くなっていましたが、低体重(やせ形)は1・04と標準体形とほぼ同じという結果でした。

欧米では、認知症のリスクとなる糖尿病は、肥満の人がかかりやすいのですが、日本では逆の結果になっています。その理由として、東アジア人は血糖値を下げるインスリンの分泌量が少ないために、やせていても糖尿病を発症しやすい体質が背景にあると指摘しています。

筋肉の衰えも認知症につながりやすい

また、筋肉の衰えが認知症の発症率を高めてしまう可能性があります。

わが国でもっとも多い認知症は、脳の退行変性疾患であるアルツハイマー型で、患者数は、男性より女性に多く見られます。いっぽう、男性に多い脳血管型は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患によって脳細胞に十分な血液が行き渡らなくなり、部分的に機能が失われて発症するものです。

正常に働いていた脳の認知機能が低下・喪失し、記憶や思考への影響によって生活力が失われてしまう状態が6カ月以上続いている症状を示すのが認知症です。

アルツハイマー型の場合、アミロイドβやリン酸化された「タウ」と呼ばれるたんぱく質が、脳の細胞の外側に集まることで神経細胞がゆっくり変性して死にいたり、海馬を中心に脳全体が萎縮するのが原因とする考えが主流です。

筋肉が衰えれば体力が低下し、体を動かすことが面倒になり、家にとじこもりがちになります。ちょっとした段差でも転倒し、骨密度が低下していれば、すぐに骨折してしまいます。そうなると、床上安静を余儀なくされ、生活圏が狭くなり、主体的に暮らさなくなり、無気力な日々を送ることになります。

こうした状態がさらに続けば、体のさまざまな機能がますます低下して使えなくなります。これが、「廃用症候群」といわれるもので、やがては寝たきりになります。この流れは、けっして大げさなものではありません。

体の機能の低下は脳に悪影響を及ぼし、神経系機能の低下を招き、軽度認知障害、認知症へと進行するリスクがさらに高まります。

加齢による変化よりも速いペースで歩行の機能が衰えてしまった人が、数年後に認知症を発症したケースが多いという調査結果もあります。

筋肉の衰えが認知症発症につながるケースは、介護老人保健施設(愛知県春日井市のメディコ春日井)の入所者175名を対象にした調査でも実証されています。

骨折や脳血管障害などなんらかの外傷や疾患が先に起こってから認知症を発症したのが141名、認知症が先でその後に転倒による骨折や脳血管障害を発症したのが23名という結果でした。

さらには、骨折してから認知症になったのは61名で、そのうち女性が57名、男性が4名と女性が圧倒的に多く、女性は男性の約14倍にもなっています。

筋肉の衰えが認知症の直接の原因ではないにしても、認知症になりやすいきっかけになっていることは明らかです。その意味でも、アルツハイマー型認知症の発症率が高い女性は特に、見た目だけにとらわれたダイエットに励むことなく、運動を習慣化し、偏らない食生活によって体力をつけ、適正な体重を維持する日ごろの努力が強く求められます。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋