<女は筋肉 男は脂肪/第4章:今、気にすべきは 女性は「筋肉」をつける・男性は「脂肪」を減らすこと(4)>
体内の物質は常に変化している
生命を維持し、さまざまな活動を行うために、体はエネルギーを必要とします。
食事などで摂取された糖質(炭水化物)、脂質、たんぱく質などは、エネルギー源物質として体内に貯蔵され、細胞内での合成や分解、神経の刺激伝達、体温の保持、筋肉の収縮などを行うためのエネルギーとして使われます。このように、さまざまなかたちでエネルギーが消費される過程を「エネルギー代謝」といいます。
1日の総エネルギー消費量は「エネルギー代謝量」ともいい、次の3つで構成されます。
・基礎代謝量……覚醒時での生命活動に必要な最小限のエネルギー代謝量。早朝の空腹時に、快適な室内で、安静仰臥位(あおむけの姿勢)で測定されます。また、安静座位(座った姿勢)で測定される指標が安静時代謝量で、座った姿勢を保つために筋緊張が生じるために、エネルギー代謝量は基礎代謝量のおおむね1・2倍になります。さらに睡眠時のエネルギー代謝量は、基礎代謝量のほぼ0・9倍です。
・食事誘発性熱産生……食事によって消化・吸収された栄養素が分解され、一部が体熱となって消費されるために安静にしていても増える代謝量。
・活動時(身体活動)代謝量……①買い物や掃除、家事などの日常生活活動(非運動性身体活動)によるエネルギー代謝量。②運動・スポーツなどの自発的身体活動によるエネルギー代謝量。
このうち、1日の総エネルギー消費量に占める食事誘発性熱産生の割合は約10%、活動時代謝量の割合は約30%ですが、ここで注目したい基礎代謝量の割合は約60%になり、体格(体表面積、体重)によって決まります。
なにもしないでじっとしているときでも、心臓は拍動を続け、呼吸をくり返し、体温を一定に保つ生命活動は休むことなく行われています。こうした活動のために消費される必要最小限のエネルギー代謝量が、基礎代謝量なのです。
筋肉と基礎代謝量の密接な関係
基礎代謝量は、生まれてから体重の増加とともに増え、思春期に入ると急増します。個人差はありますが、男子では16歳、女子では14歳でピークを迎え、その後加齢とともに少しずつ減っていきます。
基礎代謝量によるエネルギーが体内のどこでどのくらい消費されているかの内訳をみると、骨格筋が22%で、肝臓21%、脳20%、心臓9%、腎臓8%となっています。
いっぽうで、脂肪組織は重量が多いのですが、重量あたりの基礎代謝率が低いので、わずかに4%となっています。
骨格筋でのエネルギー消費がとても多いということは、逆に、骨格筋の量が少なければ基礎代謝量も少なくなります。一般に、男性に比べて女性の基礎代謝量が少ないのは、女性のほうが体格が小さく、骨格筋の量が少ないからです。
特に女性は、閉経後のミドルからシニア期になると、比較的エネルギー代謝率の高い筋肉などの除脂肪量が減少し、それを埋め合わせるかのように、エネルギー代謝率の低い体脂肪量が増加します。その結果として、若年成人期と比べて、基礎代謝量が減少してしまうのです。
では、基礎代謝量を増やすには、どうしたらいいのでしょうか。
答えは簡単で、筋トレによって、骨格筋量を増やせばいいのです。骨格筋量が増えれば、それをバックアップするエネルギー代謝率がとても高い内臓諸器官の重量もわずかですが増えるので、基礎代謝量が増えます。
特に、おしりの大殿筋、太ももの大腿四頭筋やハムストリングス、ふくらはぎの下腿三頭筋(ヒラメ筋や腓腹筋)といった比較的大きな筋肉の量を増やすことが効率的です。
日々、活発に運動・スポーツを行うと、その最中だけでなく、終えた後も体を回復させるためにさらにエネルギーが消費されます。激しい運動を長時間行うと、運動後のこの現象が数十時間も続くので肥満の予防にもつながるのではないかと考えられています。
骨格筋の量も、基礎代謝量も、男性と比較して少ない女性が、筋トレによって今すぐにでも筋肉をつけることがいかに大事か、これでお分かりでしょう。
(つづく)
※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋