<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(4)>
Q、どのような食事をすれば、骨をきたえることができるのでしょうか?
A、骨をきたえるのに食事はとても大切です。特に女性は、加齢にともなう骨粗鬆症の発症リスクが男性の約3倍という切実な問題を抱えています。カルシウム、ビタミンD、マグネシウム、ビタミンKと、大豆イソフラボンを食事によってしっかりとれば、骨密度は高まり、骨量が増えて骨は丈夫になります。
私たちの体は、200余りの骨が連結して形づくられています。それが骨格で、脊椎動物のように体内にあるものは内骨格と呼ばれます。体格は、骨格に肉付きなどが加わった体つきのことをいいます。
さまざまな骨の役割
骨の役割は、さまざまです。脊柱(背骨)や下半身の骨が支柱となって体重を支えているから、立っていることも座っていることもできるのです。
体が多様な動きをするのも、骨のおかげです。関節をまたいで2つの骨に骨格筋がくっついていて、「筋線維」という筋肉細胞が伸び縮みすると骨格筋の長さが変化します。すると、関節を軸にして2つの骨が近づいたり離れたりする、それが、体が動く仕組みです。
ほかにも、頭蓋骨は脳、肋骨、骨盤などは内臓を保護していますし、生命活動に直結する血液凝固や筋収縮、浸透圧調節などの作用に欠かせないカルシウムの貯蔵庫としての役割を、骨は担っています。
スポーツをする人は、とかく筋肉をきたえることに目が行きがちですが、実は、骨がこうした役割をきちんと担えるように、強い外圧がかかっても骨折しにくくなるようにしなければなりません。建物の骨組みが強固であれば耐震性が高まるように、体を強くするには骨を丈夫にする必要があります。骨を丈夫にするとは、骨密度を高め、骨量を増やすことです。
骨は絶えず新陳代謝
意外に思われるかもしれませんが、実は、骨も絶えず新陳代謝(骨代謝)を行っています。骨芽細胞によって新しい骨をつくる「骨形成」と、破骨細胞によって骨を溶かす「骨吸収」がくり返される「骨リモデリング(骨再構築)」といわれるもので、約10年かけてすべての骨が生まれかわります。
通常は骨吸収と骨形成のバランスは保たれ、機能的に連携(カップリング)していますが、それが崩れてカップリング障害が続くと、骨量は減少し、骨密度が低下して骨折の可能性が高まります。
女子は特に加齢で骨密度低下
加齢とともに、骨密度の低下が著しいのは、女性です。多くの女性は、50歳前後に閉経を迎え、女性ホルモンのエストロゲンの分泌が激減するために、骨粗鬆症の発症リスクは男性の約3倍にまで高まります(骨粗鬆症については、第3章で詳しくふれます)。
ですから、そうなる前のできるだけ早い時期から、ウォーキングやジョギング、重力負荷がかかるテニス、バレーボールなどの運動刺激によって骨密度を高めるだけでなく、食事によって必要な栄養素をしっかりとることが有効です。
骨をきたえる栄養素
では、食事によって、骨をきたえるには、どうしたらいいでしょうか。
それには、骨の主成分であるカルシウムはもちろん、カルシウムをサポートする栄養素の摂取が重要です。カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨形成を促進するマグネシウムとビタミンK、骨吸収を抑制する大豆イソフラボン(植物性エストロゲン様物質)などがあります。
カルシウムの吸収率がもっとも高いのは牛乳で、1カップ(210g)で230mg摂取できますから、かなり効率的です。魚介類では、ワカサギ、干しエビ、イワシ、アユ、ウナギ、サケ、野菜では、小松菜、モロヘイヤ、いりゴマ、菜の花、チンゲンサイ、大豆食品では、焼き豆腐、生揚げ、がんもどき、木綿豆腐、凍り豆腐に多く含まれています(『日本食品標準成分表』)。
1日のカルシウム摂取推奨量は、700~800mgです。特に、12~14歳の成長期にある男女は骨形成が活発ですので、ほかの世代よりも積極的にとるようにします。
ビタミンDは、カルシウムが豊富な食材と一緒に食べるようにします。サケ、イワシ、サンマ、サバなどの魚介、干しシイタケ、キクラゲ、卵、動物のレバーに多く含まれます。日光にあたるだけでも、ビタミンDは体内(皮膚)でつくられます。
マグネシウムは、わかめ、ひじき、昆布、のりといった海藻類や、アーモンドやゴマに多く含まれています。1日の推奨摂取量は年齢によって異なりますが、男性が340~370mg、女性は270~300mgです。過剰に摂取すると下痢をすることがあり、長期にわたると高マグネシウム血症になって筋力低下による脱力感を招きます。
大豆イソフラボンは、大豆胚芽に多く含まれているフラボノイド(色素成分)の一種で、閉経によって激減する女性ホルモンのエストロゲンに似た作用をもち、骨量の減少を抑える働きがあります。
大豆イソフラボンがもっとも多く含まれる食品は、きな粉です。続いて、揚げ大豆、大豆、凍り豆腐、納豆、煮大豆、味噌、油揚げ、豆乳、豆腐の順です。また、エストロゲンに似た作用をする「エクオール」という成分を腸内で産生する能力をもつのは、日本人の約3人に1人といわれているため、サプリメントで直接摂取するのもおすすめです。
さらに、骨の成分で忘れてはならないのが、たんぱく質、特にコラーゲンです。
骨の強度を保つには、筋量と強い筋力も必要ですので、そのためのたんぱく質の摂取も忘れないようにしましょう。 (つづく)
- 「スポーツする人の栄養・食事学」(樋口満、集英社新書)より抜粋
- 筆者・樋口満早大名誉教授がこの本に込めた思い